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□ある昼の話
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少し、昔の話をしてあげましょう。
俺は小さい頃、憧れていた人がいたんです。
その人は誰か知りたいんですか?…それを話したら昔話がつまらなくなるじゃないですか。
いい子だから少し話を聞いて下さいね、 。
その人はとても優しくて、頭の良い人でした。
まあ…あくまで俺が小さい頃の話ですから、今じゃ俺の方が頭は良いですよ。
これは自信があります。
…って話が逸れましたね。
え、この話の方が聞きたいんですか?
今はこれ以上は駄目ですよ。
その人に聞かれたら、怒られますからね。
これはまた後で話してあげますよ。
…分かってくれましたか?
いい子ですね。
じゃあ、いい子にはもう少し続きを話してあげましょう。
その人は優しくて、よく俺に構ってくたんですよ。
それで、俺はその人に懐いたんです。
でも、その人と過ごせた時間はそんなに長くなかったんですよ。
何故だか気になります?
それは…まあ、その人が遠くに行くことになったんですよ。
そこは本当に遠い場所なんです。
一度行ったら二度と会えないくらいに。
俺は必死に駄々をこねましたよ。
その人と離れたくなくて。
俺が駄々をこねるなんて、信じられませんか?
俺だって と同じくらいの子供だったんですよ。
失礼ですね、全く。
…ったく、気紛れなのは誰に似たんでしょうね。
え、俺?‥そうですか。
じゃあ話はここで終わりにしましょうか。
少し一人で遊んでてくれます? 。
はいはい、分かりました。
話しますよ。
‥はいは一回?
口うるさいところは母親似ですね、全く。
そんなに催促しなくても話してあげますから。
少し落ち着きなさい。
…俺は駄々をこねたけど、結局その人は遠くに行っちゃったんです。
え‥まあ、その人とはまた会えましたよ。当然ですけど。
で、話を続けますよ。
その人はいなくなる前に、俺にこう言ったんです。
“君の未来で待ってるよ”
…と。
意味、分かりませんよね?
俺だって最初は意味が分からなかったんですから。
まあ‥意味が分かれば簡単なんですよ。
「…ってアレ、寝ちゃいました?」
我が子の寝顔を見ながらリオは呟いた。
話を聞かせて、と言うから昔話をしたのに。
「はぁ…お休みなさい、 」
今から昼寝をしたら、夜眠れなくなって大騒ぎするクセに…とリオは小さく苦笑いを浮かべた。
さて、構う相手が眠っていることだし、これからどうしようか。
「…いい匂いですね」
そういえば、妻が昼食を作っていた…。
キッチンから漂ってくる匂いに、リオは食欲をそそられた。
。
久々につまみ食いでもしてみようか…と悪巧みをして、リオはソファから立ち上がった。
勿論、近くにあったタオルケットを子供に掛けることを忘れずに。
そしてキッチンに行き、テーブルの上の皿に手を伸ばす。
「ねえリオ、何してるの?」
ある昼の話
「…まだ何もしてませんよ」
「つまみ食いでもしようとしたワケ?」
この続きは、またいつか。