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□アンハッピー(?)バレンタイン
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朝、桂太と蒼紫はいつものように教室に入ろうとした。
だが、教室の扉を開けた二人は一瞬で凍りついた。

「…………」

二人の手元、それに机を凝視する視線。
嫉妬と羨望が入り交じり、射抜く…というよりも、刺すようにといった方が適切な程に鋭いものだ。

「おはよー桂太、蒼紫」

阿実の声で二人は我に返り、急いで手元と机の上にある物を片付けた。
その物とは…チョコ。
今年はバレンタインが日曜日だったため、月曜日にチョコを渡す女子が多かったのだ。
だが渡す…といっても友チョコの交換が殆どで、男子に渡されるものはあまりない。

だから余計に、チョコを貰えなかった男子達の情念が二人にまとわりつくのだ。

(イケメンだと得だよなぁ…)
(桂太なんてバスケと顔しか取り柄ないクセに)
(いや、蒼紫はスポーツ全般ダメだろ)
(だって、アイツ頭良いじゃん)



男子達の目はそう語っている。
桂太達も「文句なら俺たちじゃなくて女子に言えよ」…と言いたいが、怒りを逆撫でて余計に男子を逆上させてしまう。

「紗良は?」

「あー…確か廊下で女バスの奴らに囲まれてた。その内チョコ一杯抱えて来るんじゃねーの?」

阿実は桂太の「チョコ」と言う単語で何かを思い出したように、鞄の中をあさり始めた。

「あ、阿実さん?」

「ごめん…チョコ渡すの忘れてた」

そう言って、阿実は笑顔で二人にチョコを差し出した。
それを見た男子達の目はますます鋭くなった。
そのとき。

「桂太、蒼紫、テメーらよくも見捨てやがったな!」

桂太の言葉通り、大量のチョコを抱えて紗良が教室に入ってきた。
教室まで走ってきたのか、紗良は軽く息を切らしている。

「人聞き悪ぃな。女子バスケ部の王子サマへのチョコ献上会の邪魔にならねーようにしただけだって」

「…ったく誰が王子だ、誰が」

紗良は不機嫌だが、桂太の言葉に阿実と蒼紫は吹き出した。
頭は悪いクセに、変なことばかり色々と考えつくのが桂太らしい。


「そんなに沢山チョコ貰ってたら、私のチョコなんていらないですかねぇ?王 子 サ マ」

阿実がチョコの入った袋を紗良の目の前で振ると、紗良は無言で袋を奪い取った。
そして薄く笑う。

「お前のは毎年恒例で別なんだよ」

「まじで?なんか嬉しい」

二人のやり取りを見て桂太はヒュウと口笛を吹き、紗良はジロリと睨み付けた。
阿実も眉をしかめる一方で、蒼紫はニヤニヤと怪しい笑みを浮かべながら呟いた。

「百合、良いですねぇ」

蒼紫の呟きを聞いてしまった阿実が、蒼紫の足を踏みつけるまで…後少し。
四人の日常は、相変わらずのものだった。


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