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□ハッピー(?)バレンタイン
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「はい、コレ」

阿実はシンプルなラッピングの施された袋を取り出して、リオに差し出した。

「…何ですか?」

「トリュフ。…あ、ちゃんとビターだよ」

阿実から袋を受け取り、リオは思考を巡らせた。
今日は何かあったか…と。
恐らくプレゼントなのだろうが、自分の誕生日はまだ先だ。

「あ…今日はバレンタインでしたね」

2月14日。
好きな人にチョコを渡し、思いを伝えようとする女性。
女性からチョコを貰いたいと思う男性。
それらの人達にとっては決戦の日。

それが、リオのバレンタインに対するイメージだ。

「ちょ、気づくの遅い!」

阿実が不服そうに言い、リオは苦笑いを浮かべた。

「いや…阿実からチョコを貰えるとは思ってなくて」

そう言いながら、リオは袋のリボンをほどいた。
阿実は不服そうな表情から、きょとんとした表情になっている。

「え、何で?」

「斎藤君とか社君とか…渡す人は結構いるじゃないですか」

そう言って、リオはトリュフを一つ口に含んだ。

「まあね。…あ、味どう?ビターにはしてみたけど」

「美味しいですよ」

リオはそう言って、僅かにチョコがついた唇をペロリと舐めた。
そして、袋からまたトリュフを取り出した。

「俺の好み、覚えててくれたんですね」

「まあ…その人の好みに合ったヤツあげたいから」

阿実の言葉で、僅かにリオは眉を潜めた。
それに気付いたのか気付いてないかは分からないが、阿実が続ける。

「でも…桂太とか蒼紫のはフツーにスイートなんだけどね」


「そうなんですか。何か、あの人達にはすごく手の込んだ物をあげてそうなイメージだったので…かなり意外です」

イメージとは違った阿実の話に、リオはきょとんとした表情をした。
そして、すぐに小さく笑みを浮かべた。

「ふふ…っ何ソレ。むしろ桂太達はちょっと手抜きしてるんだから」

そう言いながら、阿実もリオにつられたように笑みを浮かべた。
阿実の頭に浮かぶのは、少し手抜きして作った桂太達に渡すチョコだ。

「それ、俺のチョコの方が手が込んでるってことですか?」

「うーん‥まあ、そうだね」

この言葉でリオの笑みは深まり、むしろ若干にやけ始めていた。

「ありがとうございます。あ、せっかく手が込んでるんだったら、作った人も食べます?」

リオは阿実の口元にトリュフを向けた。
トリュフを持ったリオの指先は、今にも阿実の唇に触れそうな程に近い。

「ちょ、リオ‥、んっ!」

阿実が口を開いた瞬間、すかさずリオは阿実の口の中にトリュフを放り込んだ。

「どうです?」

若干にやけながらリオが訊くと、むくれた表情で阿実は答えた。

「…苦い」

「あれ…阿実、コーヒー好きですよね」

「チョコとコーヒーは別!」

阿実はくるりとリオに背を向けて、歩き出そうとした。

「家に来ます?口直しにコーヒーでも淹れますよ」

「…………」

背を向けたままの阿実に向かってリオは続ける。

「それに…うちの“同居人”がチョコを買い込み過ぎて余ってるので、阿実が食べてくれると助かるんですけど」


「…じゃあ、行ってあげても良いよ」


「決まりですね」





ハッピー(?)バレンタイン
(取り敢えず、リオ君は阿実ちゃんをお持ち帰りしたいみたいですね)

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