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□木陰
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夏の午後は太陽が照りつけてとても暑いけど、町の外れのこの樹の下は、大分涼しい。
幾重にも重なった葉っぱが日光を程よく遮って、風にサラサラと音をたてる。地面には葉の隙間から洩れる光が踊って綺麗な模様が映し出されていた。
僕がそこに着いた時には、彼女はもう樹の根本に座って本を読んでいた。
「また、来たの」
僕に気付いた彼女は、本から目を離してふんわりと笑う。
初めて会ったのは、ほんの数日前。その時も彼女はこうしてここに座っていた。
「うん、また来た。ここは涼しいからね」
そんな事を言って隣に座ったけど、これは嘘。いくらここが涼しくったって、クーラーがかかった屋内には負ける。
前にそう言った時、彼女は
「家よりここの方がいいの」
と僕に答えた。その瞳がなんだか寂しそうに揺れていて、そんな彼女の事が気になったから、なんとなくここに来ているんだ。
並んで座って、僕らは色んな話をする。木の葉に覆われたこの場所は、日の照りつける向こう側とはまるで別世界みたいだ。眩い世界から切り離されたような。
…隣の彼女の体温が気になるのは、きっと世界に二人しかいない気がするからだ。
空が綺麗なオレンジ色に染まる頃になって、僕はやっと腰をあげる。
「そろそろ帰るね」
「そう」
彼女はまだ座っている。帰らないの、と聞こうとして、でもやめておいた。
「明日、」
背中を向けた僕を、彼女の言葉が呼び止める。
「明日も、ここにいるから」
柔らかな風が僕達の間を吹き抜ける。
木陰が心地好い季節が終わるまでは、僕にはこの言葉だけで充分なんだ。
「うん。…また明日」
あとがき
恋愛一歩手前が好物だと思い知った今日この頃←
つかナランチャさん俺っ子だった気が…ま、まあそこは流して下さい!最後までお読み下さりありがとうございました。