御伽噺の本棚

□認めたくない、なにか
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「せぃやあぁっ!!」

気迫が籠もった声とともに木刀が真横に薙いでいく。その太刀筋を見切っていたシンクは必要最低限のバックステップで躱し、そして一気に前進して顎の横に掌底を打ち込んだ。
打ち込まれた団員は対応強さに畏怖し、3割は戦うために準備していた。ちなみに残りの3割は気絶し、見物のほとんどは1ヶ月の中で何度も繰り返されるその光景に呆れさえ抱いている。

そんな中で1人、稽古場には似つかわしくないほど線が細く可憐な少女が稽古場の片隅でぬいぐるみを胸に抱きながら所謂女の子座りで座っていた。
桃色より更に赤みの強い髪が木の床を川のように流れているが、それを気にすることなく、白兎がもつような透き通ったざくろ色の目でただシンクを見ている。
そのあからさまに自分を凝視する視線にシンクは気づいていたが、無視して先を進める。次の相手は、槍使い。

「お願いします」

「さっさときてよね」

構えた相手に挑発するように手招きをするが、どうやら冷静なタイプのようでジリジリとシンクに迫る。
槍はリーチがあるがゆえに、懐に入られると弱い。ゆえに速さのあるシンクに対しては攻め手よりも一撃を狙いのカウンターの方がよいという判断のようだった。

その判断は正しい。が、しかしそれでもまだシンクをみくびっていた。
シンクは正面から相手に向かって駆ける。隙を見つけるために時間をかけてくるだろうと考えていただろう相手は不意を突かれるが、すぐに状況を判断してシンクの胸に向かって槍を突き出した。
しかしシンクは突き出された槍を手で少し下に逸らし、まるで転がりながら槍に沿うように前転宙返りで躱した。そしてカラダを時計回りに捻って左足首を相手の耳の下、右足を膝の裏に添えてカラダの捻りを相手を巻き込みながら戻す。
巻き込まれた相手は後頭部から床に倒れ、呻いているがシンクはそれを一瞥して氷さえ感じさせる温度のない声で「どいて」というと、辺りを見回して口を開いた。

「次。早く」


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「はっ!」

体当たりと共に密着させた状態から出した闘気が100人目を吹き飛ばし、床に伏せさせた。
百人組み手が始まってからおよそ2時間。さすがのシンクにも額には汗が滲み、顔には疲労の表情がでていた。もちろん稽古場に転がっている団員たちは疲れたという以前の問題で、すでに鍛錬場の片隅は半ば野戦病院と化していた。
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