御伽噺の本棚
□興味で始まり愛情で終わる
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ところがどうだろう、どこか少しでも該当している部分があれば振り向かせることができると思っていた俺様の呼び声を、そいつは自分が呼ばれたことに気付かず歩き続けている。
ますますそいつが気になって、今度はそいつが行く方向に先回りして目の前からもう一度呼んでみることにした。
メルトキオは俺様の庭、走ることもなくすぐにそいつの前に出られた。
「やぁ、そこの美しい黒髪のハニー。今からどこに行くの?」
今度は視線を捉えて言った。
そいつは「へ?」とちょっと間が抜けた声を出してくれた。
ようやくそこで俺様の美貌に気がついたらしいが、それよりもなぜか俺の目を見て何か驚いたらしい。
しかし、すぐに口を開いた。
「別に答える必要はないだろう。あたしは急いでるんだ。どいとくれ。」
そういってそいつはそのまま歩いて行ってしまった。
追いかけようという気持ちもあったが、それよりも驚きの気持ちの方が強かった。
女なら絶対に呼び止めることができた俺様に、振り向かない。
それが余りに驚きで、そしてなぜかとても嬉しかった。
その日の夜、そいつはテセアラ王主催の俺様の誕生日パーティーにミズホの民の頭領代理として再会した。
しかも自己紹介ついでに「私に質問したいことは?」と言って、返された言葉が「なんであんたの目は何も映してないんだい?」だ。
失敗は何もなかったはずなのに、『俺様』を初対面で見抜かれたことにその日2度目になる驚きの含まれた嬉しさで、思わず笑ってしまった。
名前は『しいな』。
ミズホの民の頭領の孫らしい。
それからは、まぁ俺様が興味があったというのもあるが何か縁があったのか、よく会うことがあった。
話してみるとなかなかいじりがいのあるやつで、あまり気を使う必要がない。たまにキレられてど突かれても、なぜか楽しい気分でいられた。
…まぁさすがに風呂を覗いたとき、戦闘用の札を持って迫りくるしいなの顔が羞恥と怒りと風呂上がりで真っ赤になっていてまるでなんかの伝説にでてくる鬼のようでひじょーに危険だったが。