御伽噺の本棚

□赤色花弁
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「ゼロスっ、そいつで最後だ!」

「ん、りょーかいっ」

ロイドの声が森の中に響き、それにゼロスが不敵な笑みを浮かべて答える。
そして白銀の刃が夕日を映して赤く輝き、その赤を一瞬空に残しつつ閃いた。
夕日を映した、だが温かみなど毛ほどもない赤い剣の光が狼の首を斬り裂き、夕日よりなお紅い血が首から噴水のように吹き出る。
確実に致命的な一撃が狼から目の光を奪った、かのように見えた。
それでもその狼は群れの中の最後の一頭としての意地なのか、突然目を異常に光らせて血を吹き出しながら紅く染まった剣をもつゼロスに飛びかかった。

仲間の息を呑む音を殺意を全面に押し出した咆哮で消し去り、狼は白く鋭い牙でゼロスに迫る。

それをゼロスは避けようとも剣を構えようともせず、すでに詠唱を終わらせた魔術を発動させた。
十数個の火の玉が狼の周りに現れ、そのうちの3つは襲いくる狼の躯を躊躇なく大地へ弾き飛ばしてトドメをさし、残りは全て森の中へと消えていく。
狼が地に落ちて数瞬、誰かが吐いた安堵の溜め息が戦闘終了を知らせその場の緊張の糸を切った。

「よっし終わりっ!」

「今日は敵とよく遭うけど、かなり余裕だね」

「この辺りの敵は多いですが、割と弱いようです。ただ油断は禁物です」

「そうだな。それにもう十日も野宿だ。いくら敵が弱いとはいえこれ以上は披露の蓄積による怪我を招きかねない。救いの小屋まで急ごう」

ロイドやジーニアス、プレセアの会話をリーガルが正論でまとめ皆が先を急ぐため武器を仕舞う。

「おーいゼロス、行くぞ」

「ーーん?…あぁ」

そんな中でゼロスは焼け焦げ煙りをあげながら痙攣している狼を一瞥したあと森の中に消えていった火の玉の方角を向いて面倒そうに溜め息をついた。

そんなゼロスをしいなは思案気に見ていた。



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「…夕方の戦いから思ってたんだけど、今日はなんかあんたらしくないねぇ」

「んー、そうか?」

解いた流れるような黒髪を揺らして少し探るようにしいなは言い、その目の前で椅子に腰かけ剣の手入れをしているゼロスは少し上の空気味に返事を返した。
一行が道を急いだ結果なんとか日が沈む手前で救いの小屋に到着し、入浴を終えた今は各自武器の手入れや談笑に時間を費やしている。
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