御伽噺の本棚

□赤色花弁
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全てが全て『偶然』とでしかいいようがなかった。
『偶然』皆が寝静まって少ししてから喉が渇いたしいなが救いの小屋の裏にある井戸で水を汲みに行き、帰ろうとした矢先に『偶然』森に入ろうとしているゼロスを見つけ、暗い中で『偶然』一瞬月の光に照らされた目が切れそうなほど冷たい空気を纏っていてあまりに日常とかけ離れていたから後をつけてみただけだった。

「まったく、撒き餌して魔物呼び寄せるわ狼に薬打って不意打ち狙うわ、それだけなら見逃してやってもいいのによ。今度は寝首狙いねぇ…」

背筋が凍る、とはよく言うものだとしいなは思った。
笑っているはずのゼロスが、凍ってしまうほど怖い。

「ファイアボールで警告までしたのにな。…大方教皇のじじいの差し金だろ? まったく、しつこいやつぁ嫌われるぜぇ。」

「ご明察です。では私の目的もお分かりでございましょう」

涼やかに答えて森の木々の間から出たのは服を黒一色で固めた短めの茶髪をした女性った。
それをゼロスはまるで何度も聞いてきたとでも言いたそうに気だるげな冷たい声で返す。

「お命頂戴、ってか?」

無言で対の短剣を両手で握って肯定の意を示す女性にゼロスは溜め息を吐き出し、剣を抜いた。
先に攻撃を仕掛けたのは、女性だった。
走って距離を詰め、右の短剣でゼロスの首を狙う。
ゼロスはそれを左手の盾で受け流すと素早く剣を振り下ろし、しかし短剣で受け止められてバックステップで距離をとる。

「…俺さま女の子には優しくする主義なんだけど、そこまで熱烈にこられるとちょーっと受け止めきれないかなぁ」

「神子さまの場合は『受け止める』ではなく『無関心ゆえに気にしない』のでは?」

「はっ…よくわかってらっしゃる」

言った直後の一足飛びでの刺突、それを女性は短剣を×字に重ねて受け止める。
そして受け止めた短剣の片方を素早く抜いて残した方で剣を受け流すと抜いた方の剣で手首を返すように斬りかかる。
ゼロスは舌打ちをして女性を蹴り飛ばして距離をとり、頬の赤い筋を指でなぞった。

「俺さま、さ」

「…?」

「女の子殺すの好きじゃないんだけど?」
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