始まりの場所

□老婆
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これは、一体どういうことなんだろう。


決して良いとは言えない目覚めで迎えた朝。
小鳥のさえずる声はおろか、虫の鳴き声すら昨日と同様に聞こえない。
一晩過ごした小屋を出て、再び生気のない森の中を歩き出すことから今日1日が始まった。

そう、1日がまた始まったはずなんだけども、


「暗い…」


砂利と落ち葉が敷き詰められている道と地面に置いてあるぼんやりとした明かり、夏なのに枯れ気味の木、その木々の隙間から見える空は暗く、そして赤黒い。
昨夜と何ら変わらないその光景に、小屋から出た瞬間唖然とした。若干変わった所があるとしたら今はあまり寒くない所と、本当に気持ち程度明るくなった…だろうか、と感じる所ぐらいだった。朝になって太陽が出ればこの場所の不気味さも幾分マシになるだろうと思っていたのに、あまりに暗すぎる此処はいくら曇りだからとは言え、太陽が昇っているとは到底思えない。


「六道くん、今何時か分かる?」


携帯はつかないし時計は持ってないから、時間がさっぱり分からない。
六道くんは袖を軽く捲って腕時計を見た。


「8時17分です」

「8時…」

「秒針は動いてないんですがね」

「……ん?」


ほら、そう言って腕時計を私に見せる。


「その上、携帯も電源が切れてつかない」


血の気が引いてくのを感じた。

時計は止まり、2人とも揃いも揃って携帯の電源が切れるなんて、これはただの偶然なんだろうか。
ただの偶然なのかもしれない。でも此処は、やっぱりおかしい。それは昨日から思っていたことだけど、一夜明けた今、改めて再確認した気分だった。
並盛じゃないとかそういうレベルじゃなくて、もうこれは確実に別世界といった感じだ。


「……」


そっと、右の二の腕に触れてみる。
袖で隠れている肩にあるミミズ張れ。やっぱり昨日見つけた時と同じように、模様になっているのが目で確かめなくても触れるだけでわかる。
もう本当に一体何だっていうんだろう。昨日あれから忘れかけていた不安がだんだんと姿を現し、心がかき乱される。


「そういえば、ケガ大丈夫ですか?」


ふと、かけられた声に前にいる六道くんを見る。
六道くんは顔だけこっちに向けていた。


「…え、ケガ?」

「足と腕、ケガしてたでしょう」


その言葉に私は目を丸くした。
足と腕のケガって、獄寺くんの後を追った時に転んで出来たやつだ。それに気づいていたなんて。

六道くんは私の驚いた顔を見て「またその顔ですか」 と眉をしかめる。
だって昨夜もそうだったけど、六道くんが気を使ってくれるなんて驚くよ。
やっぱりこの人、根は優しいんだ。


「ケガは…大丈夫だよ」


今度は強がりではない。
転んだのが昨日の今日だからヒリヒリズキズキ痛むことは痛むけど、我慢出来ない程痛くはなかった。
普通に歩けるしこのくらい大丈夫だ。

六道くんは「ほう、そうですか」と言ったと思うと立ち止まり、私の腕の傷を覗きこんだ。


そしてあろうことか傷口をつついた。


「い゛ッ!!」

「強がりですね」


強がりですね、ってつついたら痛いに決まってるでしょ!!

後を引く痛みに耐え、思いっきり睨んだが効果はあまりないらしい。六道くんは楽しそうに笑った後、また歩き出す。

何で楽しそうにしてるんだやっぱり失礼な人だな。
というより六道くんは絶対サドだ。



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