始まりの場所
□銃
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頭の中が、ぐちゃぐちゃだ
不気味なほど静寂で薄暗い道を、凶器を持った物騒な男と歩き続ける。
道の脇にぽつぽつと明かりが有るもののそれはとても弱々しい。
道の両側は鬱蒼とした森。真っ暗で奥は見えない。今にも何か出てきそうで、怖い。
"何か"とは熊みたいな獣だとか、はたまたお化けとかではない。
狂った人間だ。
この1、2時間しないうちに2回も殺されそうになった。
狂ってる。
怖い、とても。ここに居ることが。
ここは一体どこなんだろう。本当に並盛なのかな。
携帯電話は相変わらず使い物になっていなかった。電波が立ってないどころか、電源が切れちゃってつかない。
使いたい時に使えないなんて、持ってる意味ないじゃない。
歯が震える。泣き出したい。怖くて怖くてどうかしてしまいそうだ。
それでもグッと堪える。涙が流れてしまうともう体に力が入らなくなりそうだから。涙を耐えてるせいか、喉が痛い。
そしてさっきから鳥肌もずっと立っている。両脇から何か出てきそうだからなのと、私の後ろ──何かが居そうな気がしてしょうがない。
何度も振り返った。
でも目に映るのは、ぼんやりと照らされている砂利道がだけ。
誰もいない。
それに鳥肌が立ってるのは、寒いのもある。気温は今何度なんだろう……半袖だと肌寒い程度ではなくなってきた。本当に昨日まで残暑が厳しかったなんて、考えられない。
目の前を歩いている彼は長袖でうらやましい。凝視しないように軽く見る。そこでふと、さっき助けてもらったお礼をまだ言ってなかったことに気づいた。
「あの、さっき助けてくれてありがとうございました」
しばらく様子を伺ってみるが返事はない。けどなくても良いと思ってたから、別にいいんだけど。
そういえば……さっきのあの銃って、本物、だよね?なんで本物持ってるんだろ。
この人やっぱり危ない人なのかな。でも助けてもらったし……。
彼が助けてくれて本当に良かった。彼が居なかったら今頃私はこの世にいない。痛くて苦しい思いをしたに違いない。あんな鋭い刃物が勢いよく突き刺さるのを想像しただけでゾッとする。
でもやっぱり、なんで本物の銃を持ってるのか気になる。銃もそうだし、槍のような凶器もそうだ。普通では考えられないこと。
でもここは明らかに「普通」ではない。ここでは逆に、何も身を守る武器を持たない私の方が普通でないように思えてくる。そう考えると、彼は私を助けてくれたのだから、何故凶器をもっているのかとか今は考えない方がいいのかもしれない。
そんなことを自問自答していた時だった。
いきなり彼が振り向く。(しまった! また見過ぎた!?)
「……何身構えてるんですか」
「え、わ、ごめん……なさい。また見過ぎてたのかと……あの、何でしょうか?」
「これ、どうぞ」
そう言って突然差し出された物体に、私は困惑した。
「え、これって……」
「銃ですよ。見てわかるでしょう」
早く受け取って下さい。 と、至極面倒くさそうに彼は言う。
見てわかるでしょう、ってわかるよ。わかるけど、彼の意図がわからない。
「あの、これって本物、ですよね?」
「本物です」
「なんで私に……?」
「ここで何も身を守る物がないのは、可哀想だと思ったからですよ」
そう言って、早く受け取れとでも言いたげにズイッと銃を寄越すので、私は思わずそれを受け取ってしまった。
初めて触ったそれはずっしりとしていて重い。
「ここに迷い込んでから貴女と会うまでに、まともな人とは会ってません。ここでは他人を信じない方がいい。殺されますよ」
彼はそれだけ言うと背を向け、また歩き出した。
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