始まりの場所

□非尋常
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君と同じようなもの

そう言った彼は私に背を向け、森の奥へと進んでいく。

私と同じ……ということは、彼も友達とはぐれて此処へ来たということだろうか。此処、と言っても、普通に考えれば並盛のはずだ。並盛のはずなのに、並盛じゃない気がしてならない。
もしかして、ハルが言ったように神隠しにでもあってしまったのだろうか。


そんなバカな……


私は軽く頭を振り、遠ざかって行く彼を見た。自分と同じだと思うと、不思議なことにさっきまでの恐怖心がほんの少し薄れていく。
そして震えを堪えるためキツく拳を握り、一歩足を踏み出した。

さっき殺されそうになった人物に声をかけたことはおろかついていくなんて、本当にどうかしてるとしか言いようがない。
でも彼についていった方がいい気がする。私の行動が吉と出るか凶と出るか、これは一種の賭だった。


「あの!ついていってもいいですか?」


ある程度近くまで駆け寄り、彼にたずねる。
彼は止まらずに横目でチラッと私を見た後、またすぐに前を向いて歩きつづけた。


……無言は肯定、と思っていいのかな。


自分の中で勝手な解釈をし、後をついていく。
いくら少し恐怖心が薄れたと言っても、怖いことには変わりない。だからある程度離れながらだ。

こんな所ひとりでいるよりマシだった。幸い相手は私を殺すつもりはない……みたい、だし。たぶん。

前を歩いている人物をチラリと見る。
何歳ぐらいだろ。私と違って彼は私服でよくわからない。ツナ達のように長袖のシャツを羽織っている。
そして手には槍のような、見たことのない凶器を持っていた。


そう、見たことのない凶器。


「……」


ついていって本当に大丈夫だろうか。でも頼りになるって思えば……

今更なことに自問自答する。
そんな時、いきなり彼が振り向いた。
突然のことに私の肩が思いっきりはねる。


「何ですか」

「…え?」

「ジロジロ見られてとても不快なんですが」

「え、ご、ごめんなさい!」


びっくりした。彼はずっと前を見ていたのに私の視線に気づいてたなんて。それほど穴があくぐらい見てたのだろうか。

ばつが悪くなって目を逸らした瞬間見えたのは、さっきから変わらない冷たい視線だった。
彼は私のことを鬱陶しく思ってるに違いない。それは分かり易い程ひしひしと伝わっているけど、何も言われないのをいいことに私は後をついていく。


「あの、あなたも並盛に住んでるんですか?」

「……」

「……この辺なんか気味悪いですよね」

「……」


話しかけてみるけど返事がない。これ以上うるさくするとそれこそ殺されてしまいそうだから、黙ることにした。


辺りを沈黙が支配する。
そこでふと気づいた。

そういえば、変だ。

虫の鳴き声すらしないなんて。

獄寺くんと歩いてた時は聞こえていたのに、今は全くしない。
聞こえるのは微かに揺れる葉の音だけ。
おかしい。この季節、夜でも虫は鳴いている。木や草が多い所だとなおのことだ。
それなのに今は、まるで真冬のように閑散としている。


戸惑う私をよそに、彼は先へ先へと足を進める。
しばらく森の中を歩くと、再び砂利道へと出た。そして今度はその道を歩いて行く。
この砂利道もさっきと同じように、松明に似た街灯が所々ある。
本当に見たことない街灯だな、と近くにあるそれを通り越しに見た時、思わずギョッとして立ち止まった。

素材が何かの骨みたいに見える。

資料集や理科の実験室で見た模型のとよく似ている。腕か……脚、か。
関節のような部分、そして白っぽいその色は骨を連想してしまう。本物のはずはないと思うけど、やけにリアルに見えるそれが気持ち悪くて目を逸らした。
こんなの、趣味が悪いどころの問題じゃない。


目の前を歩いていた彼は立ち止まった私に目もくれず歩いていくので、彼との距離が離れていく。
私は距離を縮めるため後を追おうと、一歩踏み出した。

でも目に入った光景に、私の足は再び止まる。


「……え」


だんだん離れていく彼と、その頭上に広がる空。


空……空が、気持ち悪い


今日はずっと曇りだったから星が出てないのは知っていた。獄寺くんとはぐれる前も星は出てなかった。
今も同じだ。そこだけは。

違うのは空の色。

空に敷き詰められている雲はまるで血を含んでいるかのように赤黒く、今にでもその色をした雫がこぼれてきそうだった。
月も星も出てないのになぜか若干明るく見えるから、その様子が分かり易い。




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