始まりの場所
□悪夢は
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「真っ暗…だね」
「夜なんだから当たり前だろ」
林の中は思った通り真っ暗だった。林道は結構幅が広い砂利道で2人並んで歩いても余裕があり、道の両脇は藪で、所々で虫が鳴いている。
懐中電灯で辺りを照らしてみるものの、ハルの策略なのかそうでないのか、明かりは弱々しすぎて心もとなかった。
私の恐怖心がそう感じさせているのか、微かに吹いている風が冷たく感じる。その風が草木を揺らす度に思わず強張ってしまう私を獄寺くんが隣でバカにしたように笑った。
「ビビりすぎだろ」
「む。……獄寺くんは怖くないの?」
「全然怖くねぇ」
「ふーん…」
なんとも頼りになるけど……それはそれで面白くない気がする。
「神隠しだってね」
「そんなん信じてるのかよ」
「この林、神様がいるってハル言ってたけどなんかすごいね。林の主だって」
「……そうらしいな」
どうやら獄寺くんはこの手の話を信じてるらしい。彼の風貌から見ると何とも予想外で、なんだかおかしい。
「私たち罰当たらないかな」
「なんでだよ」
「だっておもしろ半分で神様の敷地にドカドカ入り込んでるんだよ?しかも夜に」
「……大丈夫だろ」
そうは言ってるけど私の話を真に受けたらしい。獄寺くんはさっきと違って辺りをキョロキョロし始めた。やった!これで肝試しらしくなったぞ、と思ったけど、自分が言った言葉を思い出して思わず身震いした。もし……もし、仮にハルの言ったことが正しいなら、私たちは確かに罰当たりじゃないのか?
自分で更に恐怖心をかき立てるなんて、私ばかだ。
「おい」
「な、何?」
「自分で言っといて怖がってんじゃねぇ」
「!、怖くなんかないし」
「どーだかな。ま、」
そう言いながら獄寺くんは煙草の煙を吐き出す。
「神様ってのは普段の行いが悪い奴にしか罰を与えねぇんだよ」
その彼の言葉に私は思わず吹き出した。
そんな私を見て獄寺くんは眉を寄せる。
「なんだよ」
「だって…!まさか獄寺くんからそんな言葉が出るなんて思ってなくて」
「てめぇ…」
「それに、それじゃ獄寺くん危ないじゃん」
「あ?」
「未成年なのに喫煙」
「……」
「他人の迷惑考えずにダイナマイトを投げ散らす」
「……」
「等々」
「……普通だろ」
そう言って煙草を口元まで持っていき──ためらった。動揺しているのが見て取れる。わかりやすいな、と思わず笑ってしまいそうになるのをこらえ、獄寺くんの行動を横目で見守る。
そんな私に気づいた獄寺くんは舌打ちをして、携帯灰皿で火を消した。
「あれ、消しちゃうの?」
「うるせ」
獄寺くんと話したらだんだんとこの暗い林の中も怖くなくなってきた。それでも肌をなでる風は冷たくて、身震いしてしまう。
「寒いのかよ」
「ちょっとね。なんか夏とは思えない程風が冷たいし」
「半袖なんか着てるからだろ」
「そんなこと言ったって学校から直接来たんだもん。獄寺くんだって学校では半袖だったじゃん」
全く、自分は今長袖だからっていい気なものだ。