短編変換なし(白)

□貴方のお望み叶えます
1ページ/1ページ



なんてことない普通のマンションの一室。時計の針は一定のリズムで刻み続ける。彼から連絡があったのは少し前。そろそろ来る頃ではないかと思っていたら丁度ドアからノック音が聞こえた。


「久しぶり、リボーン」

「あぁ」


ドアを開けるとそこには数週間ぶりに見たリボーンの姿。どうぞ、と言って招き入れるとフワリと抱き締められた。
華奢に見えるのに体付きはしっかりとしていて、久しぶりの感覚に心臓が速まるのを感じる。彼がつけている香水の香りに混ざって、かすかに血と硝煙のにおいがした。
一流のヒットマンはどうやら任務帰りだったらしい。他の女性の香水の香りがついてるより、こっちのほうが断然いい。


──私がそんなこと思うなんて、お門違いということはわかってるけれど…


しばらくお互いの感触を堪能した後ソファーへと促し、私は彼にエスプレッソを淹れるためキッチンへ。
右手に彼のエスプレッソが入ったカップ、左手に私の紅茶が入ったカップを持ちソファーへ向かうと、帽子と上着を脱いだリボーンはくつろいでいた。
偉そうにドカッと座っている彼が悔しい程様になってて、思わず目を細めて笑った。


「何笑ってんだ」

「別になんとなくだよ。それよりリボーンは任務だったの?」


カップをテーブルへ置きリボーンの隣へ座る。


「あぁ。つってもあっさり終わったけどな」

「そっか。でも…あんまり無理しないでね。心配だよ」

「俺は死なねーぞ」

「それはわかってるけど大ケガしたりするかもしれないじゃない」


そうは言ってみたけど大ケガしないことはわかっている。彼は凄く強い上に油断なんてしない。銃の腕は申し分なくて頭も切れて油断しないなんて…完璧じゃないか。任務で彼が大ケガすることも、死ぬことも無いのはよくわかってる。

リボーンは私の"大ケガするかも発言"に怪訝そうな顔をした後、エスプレッソを口へ運んだ。

そんな彼の横顔をじっと見つめる。
少し伏せられた瞳は長い睫に覆われ、カップに触れている唇はなんだか艶めかしい。

私の視線に気づいているくせに、彼はわざと無視をする。


「リボーン」

「何だ」

「キスして」


ゆっくりとカップを置いた彼は口角を上げてニヤリと笑う。

そして大きく噛みつくように、私の唇へ近づいた。

1、2回噛みつくようなキスの後、唇をほんの少し離す。触れるか触れないかの距離。
まるで焦らすかのように間を置いた彼は、薄く開かれた唇から舌先を覗かせ、私の唇をなぞるようにして這わせる。そしてその後は啄むようなキス。
最初は遊ぶように、だんだんと角度を変えながら深く、深く。
肩を抱き寄せられ更に深くなっていく口付け。
口内を犯される感覚に頭がぼーっとしていき、何も考えられなくなる。
このまま、時が止まってしまえばいいのに。

口に広がるエスプレッソの香り、感じる鼓動、部屋に響く時計の音──。

タイムリミットは刻一刻と近づいている。早く行動に移さないと。このまま溺れてしまう前に。怖じ気づいてしまう前に。


長い長い口付け。彼の感触を忘れないように必死に噛みしめた。

そして私は彼から離れ、ゆっくりソファーから立ち上がる。

そこからも少し離れて、彼に銃を向けた。


「……なにしてやがる」

「任務、遂行しようと思って」


私の突然の言葉にもリボーンは驚いていないようだ。ああ、やっぱり一流ヒットマンにはバレていたのか。


「驚かないの?」

「お前にオレは殺せねーからな」

「随分見くびられたものね」

「なら早くそのトリガーを引け」


そう言って彼は愛銃を取り出そうともせずに、ニヤニヤと笑っている。
やっぱりあなたは頭が切れる。それを見越して行動に出たけど、愛銃を取り出してくれなきゃ意味ないじゃない。


「どこのファミリーのもんだ?」

「言うわけないでしょ」

「言わねーと撃つぞ」

「銃も取り出してないくせによく言、」

最後の一言を言い終わる前に爆発音が響く。横を何かが通り過ぎ、後ろの花瓶が割れた音がしたのはほぼ同時だった。


「お前を殺すのは簡単だが……言っとくがその気はねぇからな」


微かに硝煙の出ている銃を右手に、リボーンは口の端をつり上げながら言う。
その言葉に、自分の眉間にシワが寄るのがわかった。それを彼は楽しそうに見ている。
私が銃をおろすと、それはそれは満足そうに笑った。


「意地悪ね」

「そりゃどーも」

「誉めてないわよ」

「期限はいつまでなんだ?」

「今日まで。だから行動に出たんじゃない。予想外な結果になっちゃったけど」

「良かったじゃねーか。死期が遅くなって」


遅くなったって言っても、明日にはファミリーの者に殺される。それをわかってるくせに。私の思ってることも、全部わかってるくせに。
本当、随分意地悪だ。
喉の奥でクツクツ笑っている彼を睨みながら、私はソファーに腰掛けた。


「いつから気づいてたの?私が敵だって」

「喜べ。途中からだぞ」

「あ、それちょっと嬉しいかも。最初からじゃなかったんだ」

「最初からだったらとっくにテメーはあの世行きだ」

「いっそその方が良かったな。というか、なんで殺してくれないの」


偽りの恋が本物になる……そんな小説の中だけみたいな話、私は絶対しないだろうと思ってた。
でも実際しちゃったんだ。目の前のこの男に。
私の任務は彼の暗殺。そのために近づき、愛人のふりをしていたのに。まさか彼に溺れてしまうなんて。
しかもどうやらかなり重症らしく、暗殺すべき相手を殺せなくなってしまった。
任務失敗=仲間に役立たずとして殺される。
それならいっそ、愛しい人の手で……って思ってたのに。


「なんだ、殺してほしかったのか?」

「何を白々しい。わかってたくせに」

「まーな。でも殺す気はねぇ。なんでかわかるか?」

「……知らない」


すねたようにそう答えると、ハッと鼻で笑われた。
というか、分からないから聞いたのに。


「お前が他の愛人と同じ程度だったら、とっくに殺してたぞ。それにお前は今からボンゴレの一員だ。拒否権はねーからな」


そう言ってニヤリと笑うこの男を、私はマヌケな顔で見ていたに違いない。
リボーンの言葉を反芻する。しばらく理解することが出来なかった。


「言ったろ、死期が遅くなって良かったじゃねーか ってな」






(お前が本当に望んでることは殺してほしいことじゃなくて、ずっとオレと居ることだろ)











甘めにしたつも…り
2008.03.19










[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ