summoner

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腹部に感じる圧迫感。


そしてすごい速さで視界を移り変わる地面。


何かの肩に担がれ、そしてそれは速いスピードで走っているもんだから、今にも落っこちそうで気が気じゃない。


ついさっきまで、夏目の家にいたというのに。

夏目とニャンコ先生に全て話して、すんなり私の話を呑み込めなかっただろうに、夏目は信じてみたいと言ってくれた。
それがとても嬉しかった上に救われ、そして名取さんの家に行けるとワクワクしていたのに。


やっと安堵できたというのに、なんで捕まっているのだろう。


私を担いでいるのは的場さんの式だ。
視界に地面と一緒に白っぽい着物が映っているし、あの背の高い式の肩に担がれているのだとすれば、地面からのこの高さにも頷ける。


私は何も悪いことはしてないのだし、放っておいてくれてもいいじゃないか。


そう思うと、悔しすぎて涙が出てくる時と同じようなあの胸が焦げる苦しさがこみ上げ、涙腺が緩みそうになってしまう。

でもそれをグッと耐える。
泣いてる場合じゃない、諦めてなんかいけない。


せっかく、安心できる場所ができたのだから。


ただ式に捕まっただけじゃないか。
的場さんに直接捕まったのなら希望はないけど、式ならまだ希望はあるはず。

そう無理やりすぎるポジティブ思考にすぐさま切り替え、そしてやれば出来る と半ば強引に自分に言い聞かせた。

すぐ斜め上には妖の顔がある。

あそこを狙えば……なんて、大胆すぎるかもしれないけど、でも──


緊張が心臓を速める。臆病さが顔を出す。

でも、やるなら今やらないと。
逃げれるかなんて分からないけど、逃げたいのなら、今しかない。


ゆっくり深呼吸をする。
落ちるかもしれないという恐怖心を無理やり捨て、体の力を抜いた。


そしてその体を振り子のようになるべく大きく振らし、その勢いで妖の顔面めがけて、




肘打ちをした。




必死な気持ちと罪悪感が混ざり合う。
私の肘と妖のお面とがぶつかった瞬間、妖は大きく前のめりになった。
途端、前に放り投げ出されたのか体が宙を浮く。


──っ、落ちる!


浮遊感を感じたのも束の間だった。直後、地面に背中を強打する。
痛みが頭に駆け上がり、目の前に星が飛んだ。

痛みで体が思うように動かない。でも早く妖から離れなきゃという思いが、なかなか動かせない体に鞭打つ。

息を止め、痛みに耐えながら上体を起こした。
妖を見ると、妖は顔に手を添えながらうめく様に倒れている。

可哀想なことをしてしまった、という罪悪感が胸に広がる。

でも、しょうがなかった。
逃げるには、こうするしかなかった。

とりあえず、早く……



「は、早く逃げなきゃ…」

「逃げるって、どこへですか」






戦慄が、背中を走った。


後ろから聞こえてきたその声は、一瞬にして私の体を拘束する。


思わず肩が跳ね、その拍子に呼吸も心臓の拍動も全て止まってしまったかのような感覚。
血流さえ止まってしまったかのように、顔から血の気が引くのが分かった。

でもそれもほんの一瞬で、すぐさま心臓はすごい勢いで鳴り響く。

背中に感じる威圧感に、体が動かせない。


見なくても分かる、あの声の持ち主。


その人が今してる表情さえ、脳裏に浮かぶ。



もう、逃げられない。



唾をコクリと飲み込み、ゆっくり後ろを振り向く。


そこには思った通り、薄く笑っている的場さんの姿があった。





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