summoner

□04
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暗闇の中、街灯が街を明るく包み込む。

今、何時なのだろう。
もう夜だとは思うけれど、まばらに人は居るしお店もまだ開いているから、そんなに遅い時間じゃないのかもしれない。


息は切れ切れで、もう走れなかった。
緊張から体力は奪われるし、そもそもそんなに体力に自信があるわけじゃないから、足は悲鳴を上げ始めている。


吐く息が白い。
汗ばんだ肌を風が撫で、思わず身震いした。


寒い……というのもそれもそのはず、いくら春に近づいているとはいえ気温はまだ低く、しかも今の私の格好は部屋着そのものだった。


周りの人達は上着を羽織っているけれど、私にそれはない。


しかも、靴も履いていない状態だ。


ずっと部屋に居たからそれは当前のことで、靴下は履いているものの、素足より幾分マシな程度。
アスファルトの冷たさはよく伝わるし、石を踏んだりしたら痛い。


そんな状態だから、周りからの視線は絶えなかった。


こんな寒空の中上着も羽織らず、ましてや靴すら履いてないなんて、周りからの好奇な目を集めるには十分だった。
すれ違う人、少し離れた場所に居る人、皆が私を横目で見ている。


それがどうしようもなく恥ずかしくて、私は的場家から逃げ出したことを後悔し始めていた。


しかも、重大すぎる問題が一つ。



夏目が住んでいる町の名前が、分からない。



本当に何やってんだと、自分を罵りたい。彼の住んでいる地名が漫画に書いてあっただろうか、と記憶を辿るも、思い出すことは出来なかった。


これじゃ、夏目に会いに行こうにも行けないじゃないか。


ため息が出る。何だか空回りしてばっかりだ。でも、もう後戻りは出来ない。


「ねぇ、あの人……」


ふと耳に入ってきた言葉に、顔が熱くなる。

コソコソと聞こえてくる話し声。それと共に感じる視線。
恥ずかしくてしょうがない。


ますます、早く夏目に会いたくなる。
必死に何か夏目に繋がるものはないかと漫画の内容を思い出していると、ふと八ツ原という単語が頭に浮かんだ。それと七辻屋。お饅頭が美味しいという七辻屋。よし、これを頼りに何とかしよう。

それに、何故かは分からないけど妖も見えるのだし、どうしようもなくなったら妖に聞く手もある。


でも出来ることならその手は使いたくない。
実際見えてしまうと、妖を怖いと感じてしまった。
だから、これは最終手段だ。


先が全く見えなくて不安だらけだけど、まず位置確認が必要なことは確かだった。駅に行けば、何か分かるかもしれない。


このままいろんな人に注目されるのは嫌だけど、背に腹はかえられず。ここは我慢だ。


よし、とりあえず駅を探さないと……。


そう決意したまさにその時、視界に入ったものに心臓が跳ねた。


前方──ここから少し離れた場所に見える、見覚えのある姿。


人の中に混ざって、的場さんの式が何かを探している。


何を、なんて愚問だ。
私しかいない。


息を殺し、そっと後退る。脈が一気に上がった。
人が幾分多いのが幸いしてか、向こうにはまだ気づかれていない。


早く、逃げないと……っ!


心の中で強くそう思ったその時、まるでそれが伝わってしまったかのようなタイミングで、的場さんの式が私を見た。

視線に捉えられ、体が硬直する。
けれど妖がこっちへ来ようとしたのを見た瞬間、咄嗟に地を蹴り、駆け出した。


──やばい

見つかった!


背中に悪寒が走る。振り向かなくても分かる、追われているという感覚。
全身の肌が粟立つ。

人の間を縫うように、ぶつかりそうになりながらも必死に走った。
途中、車道に飛び出してしまったせいで、聞こえてくるクラクションとブレーキ音。
数センチのところを車が掠める。


──あ、危な…っ!


危うく轢かれそうになり、心臓が止まるかと思った。

でもなんとか車と接触しなかったことを確認した直後、すぐに追われているという状態を思い出し、再び走り出す。



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