summoner
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部屋に戻り、鍵の閉まる音を聞いた後、私は再び壁にもたれてうずくまった。
過ぎたことに後悔しても仕方ないとは思うけれど、後悔しないではいられない。
ああもう本当に、余計なことは言うんじゃなかった。
あの時はただ、私が言った地名はこの世界に無いかもしれないことを伝えたかっただけで。
あの地名を調べられた時、もし無かったら私が嘘をついたことになり、余計怪しまれてしまう。
それを避けたかったために言った言葉は結局、私に対する疑念を強くさせてしまっただけだった。
『異世界……もし本当ならそれはすごいな』
そう言ってはいたけれど、あれは絶対表面上だけだ。
私が言ったことを信じてない。それはあの時、彼の表情にはっきりと出ていた。
それもそうか、と今更になって思う。
いきなり別の世界から来ました、と確かな証拠もなく言われ、すんなりと信じるわけがない。
ただ、的場さんに漫画のことは話さなくて良かったと、それだけは心底思った。そうでなくてもあんな感じなのに、漫画のことを伝えたりしたらそれこそ大変な状態になっていそうだ。
ため息がこぼれる。
何分か前に戻りたい。
というかそもそも、この信じられない状況を誰かに説明してほしかった。
的場さんはやっぱりあの『夏目友人帳』の的場静司だった。あの薄ら笑いとあの雰囲気、信じられないけど漫画の中の彼とぴったり一致する。
それに、あの妖も……。
夢、じゃない。今のこのリアルな感覚、夢じゃないことは確かだった。
ならここは、やっぱり漫画の中なのだろうか。
そう思ってはみるものの、その考えはあまりに非現実的すぎてなかなか信じられないし、未だに頭の中は混乱していた。漫画の世界に行きたいなんて思ったことはあるけれど、「まさかこれってトリップ?やったー!」なんてすんなり受け入れられるほどの順応性が私には無いらしい。
でもここが漫画の中だと考える以外に、この状況を説明することが出来なかった。
的場さん……好きだったのにな。
ぼんやり思って、何度目かのため息をついた。
あんなに冷たい雰囲気を持っていて、怖い人だったなんて。
……いや、彼の印象は漫画を読んだ時と変わっていない。
どこか冷たさを持ち合わせているというのは知っていたし、私はその上で彼に惹かれていた。
でもやっぱり、それは二次の世界であったからだ。
実際に会ったら、好きだったことも忘れるぐらい彼に対して恐怖を抱いた。
もし……もしここが漫画の中だとして、最初に会ったのが的場さんではなく夏目だったなら、私の話を信じてくれたのだろうか。
彼なら信じてくれたかもしれない。
夏目のことは的場さんより詳しく知っているし、最初は信じてもらえなくても、私が知ってることを全て言ったら信じてくれたかも──
と、そこでふと気付いた。
──そうだ、ここが本当にあの夏目友人帳の世界なら、主人公である夏目貴志が居るのは当たり前なことで。彼なら、私の言うことを信じてくれるかもしれない。
それに彼がここに居るなら、この世界はやっぱり漫画の中だと確信がつく。
全ては夏目に会ってからな気がする。そう思い始めたら、居ても立っても居られなくなった。
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