07/06の日記

23:00
幸せの(SSS)
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ムラユ
少ほのぼの




「なんで、こんなにあるんだ?」

村田の部屋へ入ると、机の上に五、六個のゴムボールを入れた半透明のカゴが置かれていた。

「しかも黄色ばっかり」

「あぁ、うん。ちょとね」

何故かはぐらかしながら、カゴを部屋の隅へと追いやっている。
その様子を見届け、村田と話をするも先程のカゴが気になっていた。

「なぁ、アレって何かあるの?」

話の区切りがいいところで、ボールの事を振ってみる。


「やっぱり、気になる?」

さっきは隠そうとしていたのに、今度は意味深な返事だ。
相変わらずにこやかに笑ってるけど。

「うん。すごく気になってる」

「アレはね、ハンカチじゃあないけど渋谷が遠征に行った時に、紐を通してぶら下げて帰りを待っていようと思って集めてるところなんだ」

「そうか、だから黄色ばっかり……って嘘だろ、その話」

「気付いた?」

「当たり前だ」

いくら何でも気付くだろう。
その前に、どこから帰ってくる予定の遠征かはわからないけど、黄色のゴムボールばかり無心にぶら下がっていてはシュールな光景しか思い浮かばない。むしろ避けたいところだ。

「それで?」

「どうしよう。言うのやめとこうかな」

「なに勿体ぶってんだよ」

「そんなつもりはないけど……。あの……アレでボール投げる練習してるんだ」



………………………、え?

「そんな顔して……、口開いてるよ」

「いやっ、えーと何でまた?」

思わず聞き返してしまった。
おれにとっては、予想外というか何というか、村田の口からそんな答えが返ってくるとは思いもしなかったからだ。

「野球してる時にさ渋谷ってば僕じゃない別の人と楽しそーにキャッチボールしてるから、僕も渋谷としたいなぁ、と思って。まぁ一種のやきもちだったりするんだけどね」

「そんなの言ってくれれば――」

「言う前に練習しとかないと、下手なのに付き合わせるのも悪いし……」

気にしなくてもいいのに。
恥ずかしそうに笑う村田に、胸が痛んだ。

「わかった、村田。今から特訓しようっ!!」

「えっ!?と、特訓っ!?」

ボールの入ったカゴを手に取り、もう片方の手は村田を掴んで外へと向かう。
背後で村田の制止する声を聞きながら、すでにおれの頭の中はキャッチボールへの道の練習メニューの事で一杯だった。



→end

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