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□苺とボクと
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「はい、あーん♪」

ニコニコと上機嫌で手を口元へ寄せてくる人物、高瀬準太。その手にはこの季節一番美味しい赤い果実、苺が一つ握られていた。

「じ、自分で食える!!」

何故このような状態に陥ったのか、苺を目の前に差し出され狼狽えているのは高瀬の恋人である榛名元希だ。
これが普通の恋人同士であれば微笑ましいで済む行為であるが、バリバリのスポーツマンである二人の大男がやっているのだからその風景は異質そのものだった。

行き交う人々がチラチラと目線を合わせない様に見ている。そんな空気に耐えられず迫ってくる高瀬の手を引っ込めさせようとするが、アッサリと振り払われてしまう。

「俺が食わせたいんだからいーの」

語尾にハートのマークでも付いてるんじゃないかという程に浮かれている高瀬とは対照に、榛名の気持ちは急降下していく。

「だぁー変な喋り方すんな!気色悪い!!」

「だって榛名イチゴ好きだろ?」

榛名の機嫌なんななんのその、高瀬の持つ苺は更に榛名の口元に近付いた。

「好きとか嫌いじゃなくて!ココどこだと思ってんだ!」

食ってなるものか!と最早意地になり迫る苺を押し戻しながら榛名は答える。


ココ、今二人がいるのはショッピングセンター内のクレープ売り場である。品揃えが豊富と評判のスポーツ用品店が入っており、こうしてたまに二人で訪れるのだ。
目当ての物を購入し終え小腹が空いてきた頃、ちょうどクレープの甘い香りに誘われて立ち寄ったのである。
そこは休日ということもあり、カップルや家族連れ、学生達で大変賑わっていた。



苺にするかチョコにするか散々悩んで結局チョコクレープにした榛名。

『イチゴ好きだけど…、この限定チョコも美味そうだよな!』

『じゃあ榛名はチョコにしなよ、俺イチゴ頼むし。んで少し分ければいいじゃん』

『ホントか?うっし!じゃそれで決定な!』


そんな会話はつい10分程前のこと。


「何言ってんだよ、イチゴ食べたかったんだろ?ほらあーん」

確かに分ければ良いと言った。しかしそれはこんな風に食べさせて貰う等ということではない。普通に一口くれれば良いのだ。

「あーんじゃねーよ!こんなトコで恥ずかしい奴だな!」

「だって家でやったって榛名食べてくれないじゃないか!」

「当たり前だ!んな恥ずかしいコト出来るか!!」

家で出来ないコトが外で出来る訳がない。イイ年した男がするモンじゃねぇ!といくら榛名が訴えようと高瀬は一向に諦めない。
それどころか素直に食べてくれない榛名に痺れを切らし強行手段に出たのだ。

「おら食え!」

「んぐぅ…ッ!?」

無理矢理榛名の口に苺を突っ込んだ。

「ぐ…ゲホッ…ごふぅ…」

突然の衝撃に苺を喉に詰まらせ、生理的な涙が目尻に溜まる。
ケホケホとムセる榛名を横目にどこか満足そうな顔をした高瀬。あまりの仕打ちに暫く言葉をなくしていた榛名だが呼吸が落ち着くとともに沸々と沸いてくる怒りの感情。


「テメー殺す気かよ!何すんだ!!……ゲフッ」

まだ完全に飲み込めていなかったのか、大声を出したらまたムセてしまった。怒鳴り付けることを諦めただただ高瀬を睨み続ける。

「あ、なんかその顔そそる」

「な!!?」

「目に涙溜めて睨んでるなんて…うんイイな!もっとやって!」

あの仕打ちにこの言葉。榛名は目眩を覚えた。目の前にいる男が理解できない、いや理解しようとも思わない。


「高瀬…、いい加減にしろよ?」

ワナワナと肩を震わせ掴みかかりたい衝動を堪える。ここで怒ったら相手の思うつぼだ。

「あ、まだ欲しい?はいあーん」

「もごぉ…ゲホッゲフッ!」

「ほらほらちゃんと噛まないと」

ニヤニヤと笑いながら口元についた苺を拭っている高瀬は確実に確信犯だ。周囲の冷たい視線が突き刺さる。クスクスと嘲笑うかのような声まで聞こえてくる。
普段なら周囲の事なんて全く気にしない榛名だが、この時ばかりは気になってしょうがなかった。話し声全てが自分達に向けられた言葉のような気がしてくる。いや、自意識過剰とかでなく大半が自分達に向けられた言葉だ。

もう、もう…!



耐 え ら れ な い !!



1秒たりともその場に居たくなくて一目散にその場から走り出した。荷物も全て置きっぱなしだったがそんなものは残してきたアイツに持って来させれば良い。
とにかくあの場の空気と彼の行動に耐えきれなかった榛名は、自慢の体力をフルに使い目にも止まらぬ速さで去っていった。








一方残された高瀬は…。


「またフラレちゃったのー?」

「はは、また逃げられちゃった」

「もっとソフトにいかなきゃ」

「でもアイツの慌てる姿が可愛くてさ」

「もーコレで何度目?いい加減愛想つかされるよぉ」

「あ、それは大丈夫!超愛されてるから」

「あーハイハイ、ゴチソウサマ!」


ココに来るたびに同じ事を繰り返している二人。クレープ屋の定員さんにバッチリと覚えられてしまっていた。すっかり仲良くなり恋の応援までされていたのであった。



end
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