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□君の真実
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それはベッド上、枕元に落ちていた。
なんで…なんで榛名がこんなの持ってんだ…。
今日は日曜日。
珍しく武蔵野も桐青も部活が午前中で終わったので、二人は久しぶりに逢っていた。
付き合いだして早3ヶ月経つが、お互い毎日朝から晩まで学校に部活だ。甲子園を目指す高校球児に休日なんてある筈もなく二人きりで過ごすのは3週間ぶりだったりする。
電話やメールは毎日のようにしているが、やっぱり顔を見たいし直接話したい。
そんな訳で榛名が高瀬を部屋に誘い、楽しい一時を過ごしていた。
「あ、そうだ!ケーキあるんだけど食うか?」
お昼を食べてから数時間経ちちょうど小腹も減ってきた。
「良いのか?食う食う!俺結構甘いもの好きなんだよ」
「知ってる。じゃあ持って来るな!」
直接逢う機会は少ないが、電話やメールで時間を共有し二人の距離は確実に近付いていた。
お互いの好みが分かるくらいには。
榛名の言葉に改めてそれを実感し高瀬は嬉しくなる。
「あぁ、手伝うよ!」
「イイって、すぐ戻って来るから座ってろ」
ヒラヒラと手を降って榛名は部屋から出て行った。
一人部屋に残された高瀬は改めて榛名の部屋を見渡した。
隅々まで綺麗!とは言わないがきちんと片付けられている。もっと乱雑な部屋を予想していただけに少し意外だ。
(と言うかあんま物がないんだな)
野球の雑誌にグローブにボール、トレーニング用品など本当に野球に関する物しかない。
高瀬の部屋も野球関連の物が殆どであるが、趣味の本やCD等もっと物がある。足の踏み場がなくて困るくらいに…。
少しは見習わなければと溜め息をひとつついた。
「はぁ…片付け、苦手なんだよなぁ」
もう一度クルッと部屋を見回した時にそれに気付いた。
枕の下になっていて半分程隠れているが、銀色の小さなスティック状の物。
野球だらけの榛名の部屋には大変似つかわしくない。こんな部屋だからこそ異様な雰囲気を発していた。
思わず高瀬はそれを手に取る。
「口…紅………?」
まさしくそれは女性が化粧をする際に使う赤い口紅だった。
「なんでこんな物が…?」
これが榛名の部屋ではなく他の男の部屋なら、たとえ異様ではあってもこんなに気にはならない。
と言うか普通に彼女の物だろうし。
彼女……?
榛名の……?
いやいやまさか、今榛名と付き合っているのは自分の筈だ。
自分の考えに大きく首を降って否定する。男同士だけど、多少強引ではあったけどちゃんと好きだと気持ちを確認し合ったのだ。
じゃあ榛名が使うとか…?
いやいやいやいや、もっとあり得ないだろ。何考えてんだ俺、と高瀬は自分で自分を突っ込んだ。
と言うことはやっぱり榛名の彼女のってことだろうか。
最近まともに会えて無かったし、付き合っていると言ってもまだプラトニックな関係で…。
そう思ったら急に不安が押し寄せて来た。一度悪い考えに至ると思考はどんどんマイナスになっていく。
この部屋で女の子と逢っていたのだろうか…。
二人で…。
しかも部屋で化粧を直すような関係で……。
頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けて、高瀬は暫く手の中にある口紅から目を離せずに固まっていた。