ss

□始まりは突然
1ページ/2ページ

「なぁタカヤ、お前キスしたことあるか?」



ぶはぁっ


俺は飲んでいたスポーツドリンクを盛大に噴いた。


「うぉ、キッタネーなお前!」

コッチまで飛んで来たぞコラ、とブツブツ言いながら睨んでくる彼。
強い視線に思わず怯みそうになるが、今のは俺のせいではないはずだ。断じて!


「元希さんが突然変なこと言うからでしょう!」



つい先ほどまで今日の投球内容について言い合いをしていた。
相変わらずのノーコンぶりとサイン無視に俺がキレて、そんな俺に彼がキレて…。


そこまではいつも通りだったんだ。


ふいに何かを考えるように黙りこんだ彼に、どうかしましたかと聞こうとしたら冒頭のセリフが返ってきた。


この人の言動はいつも突然だ。いや、言動だけじゃない。その行動全てが突拍子もないことばかりなんだけど。

いい加減慣れてきたと思っていたが、思い違いだったようだ。
俺にこの人の思考回路はまだまだ理解出来ない…。


「あぁ?いや、ちょっと気になっただけだよ。で、どうなんだよ?」


自分でも突拍子もない事を聞いたという自覚があるのか、珍しく言葉につまっている。


「そういう…元希さんこそどうなんですか。」


俺はキスどころかそういう事をする相手さえまだ出来た事はない。
まだ中学1年なんだ、普通だろう?


それでも自分から言うのはなんか悔しいから反対に聞き返す。



「は、俺…?俺はその、あー…」
「あぁ、ないんですね。」


明らかに動揺を見せた彼。
目が泳ぎまくっている。分かりやすい人だな。


「なっ!そ、そんなこと言ってねぇだろ!あるよ!」
「でも少し意外ですね、アンタもてそうなのに。」


口は悪いが顔は良い彼だ、それに意外と人懐っこい性格をしているし。俺様ではあるが裏表のない彼にはとても好感がもてる。


もしかしなくても、そうとうモテるんだろうな…。



「こらタカヤ、聞けよ!あるっつてんだろ!!」



今のところ特定の相手がいる様子はない。毎日朝から晩まで野球漬けの毎日だしな。



それとも、想い人でもいるんだろうか……。



黙って見てるだけ、なんてこの人には似合わない気がするけど。
でもなんか、意外と純情そうだな…。


ふと彼を見れば真っ赤になって騒いでいる。


マウンドに立っている時の大人びた表情とは違い、年相応な彼の表情はなんだか可愛らしいと思えた。






……って、可愛らしいってなんだよ。
相手はあの俺様榛名元希だぞ。
あり得ない、この人のドコに可愛いなんて言葉が出てくるんだ!

あり得ない、あり得ない…。


モンモンと考え老けっていると、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえてきた。




…カヤ、タカヤ、タカヤ


「タカヤ!!」
「うわぁ、はい!?」


彼の声で一気に覚醒した。その声は遠くではなく目の前からだった。

顔を上げるとすぐ近くに顔があり、思わず赤面する。
整った顔立ち、帽子のクセはついてるけどサラサラとした髪。

あ、結構目大きいんだな。
釣り目だけど。



可愛い……か…な…?



「何飛んでんだよ。変な奴だな…。あ、さては俺が経験者だからってスネてんだな?」


どうやら彼は自分をキス経験者と言うことで自己完結してしまったらしい。
ウソと分かっていても彼の見下した態度にムっとする。


「俺だってありますよ。今、ここで…」



そう言って身体を引き寄せ、彼の唇に自分のソレをそっと合わせる。

彼が息を呑むのが伝わってきた。


乾燥しているせいでカサっとした感触が唇に感じる。
それがまた妙にリアルに伝わってきて、あぁ俺元希さんにキスしちゃったなんてボーッと考える。



触れるだけのキスを暫く味わって、最後に彼の唇をペロリと舐めて離れる。
彼はピクリとしたがまだ放心状態のようだ。


「ごちそうさまでした。」


その声にハッと正気を取り戻した彼が口元を押さえながら震えている。


「な、なな……、な…に……」
「何ってキスですよ。経験者の元希さんに教えてもらおうと思って。」
「キ、キスぅ…!?」


その言葉にみるみる赤くなっていく彼。
火でも噴くんじゃないかというくらいに真っ赤になって狼狽えている。


あぁヤバい、やっぱり可愛いかも。



そんな彼を見ていたら、年頃な男の子の正しい反応、ムラムラっと来てしまう訳で。


「もう1回していいですか。」


そう言って再び身体を引き寄せようとしたら




ドン……




両手で突き飛ばされた。



勢いで思わず尻餅をついた俺を物凄い視線で睨んでくる。


「な…、お前!ふざ…ふざけんな!俺の、俺のファースト…っ」


ハッと自分の言動に気付いた彼がバツが悪そうに顔を赤らめた。


最初から分かってるけど…。


「大丈夫ですよ、俺もファーストキスですから。」

何が大丈夫なのか自分でも分からないけど、とりあえず慰めてみる。

するとまたもや彼の頬が赤く染まった。


あれ、コレって案外脈ありだったりするのかな。


「なんだよ、そのニヤけた顔は…。」
「いえ、元希さんって意外とウブなんだなと思って。」
「な、なんだとっ!」

真っ赤な顔して睨まれてもいつも以上に怖くはない。むしろ怒れば怒るほど可愛く見えてくる。


体を起こして再び彼を見つめれば、照れたように視線を外して俯いてしまった。


「これ以上したらアンタ本当に顔から火噴きそうだから、今日はこのくらいにしときますよ。」



そしてチュっと音を立てて頬にキスをした。



end
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ