頂き物
□Dear Writer...
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『――駄目だな、僕は。こんな時に、何て言えば良いのかわからない。美しい言葉を書きたいと思ってきた。その為の努力もしてきた。恋愛物も幾つも手掛けて、感動的な告白シーンも書いてきた。けれど、そのどれもが今に相応しくない気がする。僕の言葉なんて、上辺だけの空虚なものだったと気付いたよ。――ねぇ、何て言えば良い? 何て言えば、この想いは君に届く?』
『あなたの胸を占める言葉を、言ってくれさえすればそれで……』
『――そんな、ありきたりな言葉で良いのか、君は』
『ありきたりな言葉というのは、それだけ長く、多く、使われてきた言葉だという事。それはつまり、新しい言葉が幾多生まれても、輝きを失う事の無い、至極の言葉という事ではないですか? ――だから私は、その一言で充分です』
『――――っ。君が、好きだ』
彼女とは出逢って5年になる。
その間に幾つも彼女の作品を読んできたが、恋愛物は疎か、他者との深い関わりを書いた作品は、一つも無かった様に思う。
だから思ったのだ、珍しい、と。
「――そうだね。これまで何となく避けてきてたから……。書きたいとも思わなかったし、そもそも書けるわけないと思ってた」
「それが変わった、か……?」
「おかげさまでね」
そう言って笑う彼女に、本当に変わったな、と思う。
その要因に、自分も含まれているのなら光栄だ。
「一つ、訊いても良いか?」
「何?」
「『言葉』にまつわる話を書いたのは、『あいつ』の影響か……?」
それは、彼女を変えた最大の要因。
気ままな猫の様であり。
吹き抜ける風の様であり。
けれどどこかひどく儚かった、一人の少女。
その少女は言葉の力を知り、言葉を扱う者だった。
「――うん、そうかもしれない。自分でも気付いていなかったけど。私はあの子が居たから、この話を書けたんだと思う」
『書いた』ではなく『書けた』と言った事に、彼女の想いを見た気がした。
――深い、感謝の意を。
その事実に僅かな悔しさと羨望が込み上げて、思わず苦笑してしまう。