頂き物

□Dear Writer...
2ページ/3ページ




『――駄目だな、僕は。こんな時に、何て言えば良いのかわからない。美しい言葉を書きたいと思ってきた。その為の努力もしてきた。恋愛物も幾つも手掛けて、感動的な告白シーンも書いてきた。けれど、そのどれもが今に相応しくない気がする。僕の言葉なんて、上辺だけの空虚なものだったと気付いたよ。――ねぇ、何て言えば良い? 何て言えば、この想いは君に届く?』

『あなたの胸を占める言葉を、言ってくれさえすればそれで……』

『――そんな、ありきたりな言葉で良いのか、君は』

『ありきたりな言葉というのは、それだけ長く、多く、使われてきた言葉だという事。それはつまり、新しい言葉が幾多生まれても、輝きを失う事の無い、至極の言葉という事ではないですか? ――だから私は、その一言で充分です』

『――――っ。君が、好きだ』




彼女とは出逢って5年になる。


その間に幾つも彼女の作品を読んできたが、恋愛物は疎か、他者との深い関わりを書いた作品は、一つも無かった様に思う。


だから思ったのだ、珍しい、と。


「――そうだね。これまで何となく避けてきてたから……。書きたいとも思わなかったし、そもそも書けるわけないと思ってた」
「それが変わった、か……?」
「おかげさまでね」


そう言って笑う彼女に、本当に変わったな、と思う。
その要因に、自分も含まれているのなら光栄だ。


「一つ、訊いても良いか?」
「何?」
「『言葉』にまつわる話を書いたのは、『あいつ』の影響か……?」


それは、彼女を変えた最大の要因。

気ままな猫の様であり。
吹き抜ける風の様であり。
けれどどこかひどく儚かった、一人の少女。

その少女は言葉の力を知り、言葉を扱う者だった。


「――うん、そうかもしれない。自分でも気付いていなかったけど。私はあの子が居たから、この話を書けたんだと思う」


『書いた』ではなく『書けた』と言った事に、彼女の想いを見た気がした。

――深い、感謝の意を。

その事実に僅かな悔しさと羨望が込み上げて、思わず苦笑してしまう。





  
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ