NOVEL

□School Sailing]
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 電話を切って、ふわぁ、と大きな欠伸を一つして伸びをする。

 ちょっと寝ておいてよかった。
 まぎれこんだネズミがすぐ見つかるとは限らない。
 今日は徹夜覚悟かなー。
 ま、もしそうなったら明日は学校サボって寝てればいいか。
 大体、俺が今まで毎日学校行ってたことの方がオカシイ。皆勤賞狙いってガラでもないのに。
 授業は時々サボってたけどね。

 ちょっと迷ってから制服を上下黒のジャージに着替え、部屋を出る。
 廊下には食堂帰りのヤツらや、大浴場へ行くヤツらなんかがいて、結構人が多い。
 とはいえ、広い校内ならともかく寮の廊下は校舎のより狭いから、見知らぬヤツが侵入したらすぐわかるだろう。
 外部生の俺が見せ物パンダ扱いされるくらい、外から入ってくるものに敏感っていうか、刺激に飢えてるからな、ここのヤツら。

 まだ騒ぎになってないってことは、新山は寮内には侵入してないってことか。
 もし、どっかの部屋の窓から侵入してその部屋から出てない、とかなら俺には知りようがないけど。
 この寮の窓って全室強化ガラスらしいから、そう簡単には割れない。侵入されたとすれば窓に鍵かけてなかったヤツだ。
 そんな不用心な人の面倒までみきれませんって。

 そういうヤツは一回痛い目にあって、これからの人生にそれを教訓として生かすといいと思う。




 さて。
 寮から出たはいいが、この広い学園内で人一人を探すのは難しくない?しかも暗いし、と軽く途方に暮れてたら、ポケットの中の携帯が震えた。

 ディスプレイにはまたも雅人さんの名前が。
 適当にぽてぽて歩きながら電話にでる。

「はーい、なにー?」
『柊、襲われて気を失ってた警備員が意識を取り戻したんだが、そいつ、倒れる時に咄嗟に発信機を新山の服に付けたらしいんだ』
 おー、仕事しろ、なんて言って悪かったな。
 むしろナイスファイト!
 グッジョブ!

『その発信機によると、新山は今、寮の…北西50Mのあたりにいるぞ』

 ……んー?北西?
「って、まず北がどっちなのかもわかんないんだけど」
『ああ…北西は寮の裏手の林の方だ』

「あ?寮の裏手って……」
 ココじゃん、と思った瞬間、頭上でバサバサッと音がした。
 そしてザッと落ちてくる影。

「っおわっ!」

 携帯を耳にあてたまま、条件反射的に身を仰け反らすと、鼻先をひゅっと風が掠めた。

 ひらひらと木の葉が舞い落ちる。
 
 立て続けに繰り出される蹴りをバランスを崩しつつ辛うじて避け、『柊っ?!』という雅人さんの声が洩れる携帯をパチンと閉じてポケットへ突っ込む。
 ひゅっと音をたてて迫る蹴りをこちらも足で弾いて、互いに一歩引いて態勢を立て直した。

 少し離れた街灯からの明かりにうっすらと照らされて、新山が狂暴な目でニヤリと笑う。
 
 そして、指先に小さな物を挟んで俺に見せるように振った。
「……発信機?」
 あ、もしかして、発信機に気づいてて、俺をおびき寄せるためにわざと外さなかったってことか?
 なんか、新山君ったら勝ち誇ったような顔してますが。

 ここに来たのは発信機とは関係なく、偶然なんだけどね……。
 まあ、喜んでるみたいだから、真実は言わないでおいてあげるけどさ。

「やっぱり、葉山はシュウだったんだな……」
 新山が、じいっと張り付くような強い視線で俺を見つめる。

「ん?」
 そういえば、俺って変装グッズ装着してくんの忘れてないか?
 今は素だよ、素。
 髪色と目の色は違うけど、それ以外はシュウそのもの。

「あれ?でも、何でこの格好の俺を見てあの葉山と同一人物だって思うわけ?」
 新山が見た『葉山』はボサ頭のドジっ子眼鏡なのに。
 今の俺がシュウだってばれるのはわかるけど、何で同時に『葉山』だってバレるんだろって思ったら。

「昼間会った葉山と、同じ匂いがする。うちの学校で押し倒した時にも、どこかでかいだ匂いだと思ったんだ……見た目が違い過ぎて、確信が持てなかったけどな」

 と、新山さんは言いました。

 うーん、動物がいますよ、ここに。
 早く警備の人捕獲に来て下さい。
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