NOVEL
□School Sailing]
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新山オタク萌え疑惑に思いを馳せていたら、都先輩がお茶を運んできてくれた。
今日は貰い物の羊羹があるとかで、お茶は焙じ茶だ。
洋風の部屋に似合わない、和の香りが漂う。
この部屋に羊羹もミスマッチだけど、葦原先輩に羊羹と焙じ茶も似合ってない。
似合ってはいないけど、楊枝で羊羹を刺して口に運び、茶を啜る姿さえ優雅だ。
なんか、見た目的にはどこぞの王子様が日本文化を体験中、みたいなんだけど、動作は作法をちゃんと心得た者のそれだ。
うーん、得体が知れない。
「葉山、朝から忙しかったんだろう?宝蔵寺には俺がついてるから、お前、今日は帰ってもいいぞ」
日向先輩がにっこり爽やか笑顔で言ってくれる。
「え?いいんですかー?」
「ああ、とりあえず俺は自分の仕事は一段落したから、宝蔵寺がこの部屋から出る時はお供できるし、寮の部屋までちゃんと送るから大丈夫だ」
んー、確かに、今日はちょっとお疲れモードだよな。何より、腹へったし。
チョコと羊羹だけじゃエネルギー足りない。
「あー、じゃあ、お言葉に甘えて今日はお先に失礼させてもらいますねー」
お茶を飲み干してから立ち上がると、葦原先輩が優雅に手を振った。
「君の顔をもっと眺めていたかったけどね。残念だよ」
「いや、俺の顔なんか見てないで仕事して下さい…んじゃ、友枝会長、そういうわけなんでお先に失礼しまーす。早くその痕、消えるといーっスねー」
へらへらっと笑って言ってやったら、友枝会長は書面に落としていた視線をちらりと俺に向けると、
「俺は別に消えなくても構わないが?何だったら、消えたらもう一度付けさせてやろうか?」
そう言って、いやに艶めいた笑みを浮かべた。
会長の言葉に、都先輩は「え?」と驚いたようにぽかんとし、日向先輩は面白そうに目を輝かせ、葦原先輩は何も聞いてないような顔で優雅に茶を啜っている。
「なーんだ、友枝のソレは葉山の「……おっつかれ様でしたー」
俺は嬉々としている日向先輩を遮って適当に挨拶すると、向けられる視線から逃れるようにさっさと生徒会室から退散した。
PiPiPiPiPiPi………
どこか遠くで何かが鳴ってるなーと思っていたけど、意識が浮上するにつれてだんだんその音が大きくなっていくように感じる。
「…う……ん?」
音のする方へ手をのばし、指先に触れたものを掴んで引き寄せる。
半分も開いていない、今にも閉じそうな目で手元を見ると、音源である携帯の背面ディスプレイには『雅人さん』の文字。
ついでに時間も確認すると、20時を少し回ったところだった。
「んー……」
確か、帰ってきてすぐに食堂で『海ブドウのサラダとジーマミ豆腐、ソーキそばの沖縄セット』を食べたんだよなー。で、満腹でベッドに転がったせいで眠ってしまったらしい。
携帯を開きながら部屋の中を見回す。まだ森村は帰ってないらしい。きっとまた子猫ちゃんとの逢瀬を楽しんでるんだろう。
「もしもーし」
『柊か?』
「おーう、雅人さん、何か用?」
『お前、今、どこにいる?』
「どこって、寮に決まってるじゃん。晩ご飯食べてから寝てたー。誰かさんが朝っぱらから俺をこき使うから疲れちゃってー」
眠い目擦りつつ、嫌味言うのも忘れない。
『新山、いなくなったぞ』
半開きだった目がいきなり開いたぞ。
「どういうこと?」
『保護者が引き取りに来るまで学園内の警備棟の方で預かることになってたんだが、見張ってた警備員を二人殴り飛ばして脱走したらしい』
「何それー。俺の午前中の苦労は何だったわけー?」
給料貰ってるんだからシッカリ働いてくれよ。