NOVEL(連作短編)
□クローゼットの魚3
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赤と緑の大きなリボンを解いてキラキラした白い包みを開くと、中からはほんの少しだけクリーム色がかった白のコートが出てきた。
厚手のダッフルコート。
ものすごく肌触りがいいから、きっとすごく高いんだろうなって思う。
だからこそ、申し訳ない。
だって外にほとんど出ない僕に、コートを着る機会なんてないから。
今年のクリスマスイブは祝日なのだけど、秋宮さんは朝からお仕事。
で、夜に帰ってきた秋宮さんは大きな包みを抱えていた。
「真冬君は何もいらないって言ったけど」
そう言って渡してくれたいかにもクリスマスプレゼントって感じの包みだった。
「ついこの間の誕生日にも、真冬君は何もいらないと言っただろう?だから今度は何かあげたかったんだよ」
冬生まれの僕の誕生日はクリスマスとあまり日が離れてない。
その誕生日の時、僕はプレゼントのリクエストを聞かれて「いらない」と言ったから、クリスマスも当然何もないものだと思ってた。
日常のちょっとした話題のつもりで「〜って便利そうですよね」とか「〜ってよさそうですね」と言うと秋宮さんはすぐに買ってきてしまうから、誕生日だからといって特別欲しいものなんてない。
大体外に出ない僕に必要なものなんてそれほど多くはないし。
「店の前を通った時飾られているのを見て、真冬君に似合いそうだと思ってね。つい、買ってしまったんだ」
「ありがとうございます」
お礼を言う。
本当に嬉しいと思う。だって、僕がいないところでも僕のこと思い出してくれてるなんてすごいことだから。
でも、だからこそ、このコートを役立てることができなくて申し訳ない気持ちになるんだ。
貰ったコートをぎゅっと抱きしめてもう一度お礼を言うと、秋宮さんは僕の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「私がこれを着た君を見たかっただけなんだから、そんな顔しないで。むしろ君がそれを着て見せてくれることが君から私へのクリスマスプレゼントみたいなものだよ。ここで着てみてくれるかい?」
微笑んで優しくそう言ってくれた秋宮さんに頷いて見せて、僕はいそいそとコートを羽織った。
それは僕にぴったりのサイズで。
一応育ち盛りな歳の僕は多少成長する予定だから、来年にはちょっと小さくなってるかもしれない。
コートを着た僕を見て秋宮さんはにっこり笑った。
「やっぱり、よく似合うな。可愛い」
秋宮さんは僕の右手を取るとそれを少しそれを上げて、まるでダンスみたいに僕をくるんと一回回した。そして一回転したところで、ぎゅっと抱きしめてくれる。