NOVEL(連作短編)
□クローゼットの魚2
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僕の目の前に小さくてほわほわした塊が転がっている。
僕は息を止めて、じいっとそれに見いってしまった。それはころんころんと転がってから、頭をちょこんと上げて、
「ミャア」
と、小さくて鳴いた。
「真冬君、息はしなさい」
秋宮さんがちょんと僕の頭をつつく。
僕は慌てて大きく息を吸った。
「猫です」
僕が言うと、秋宮さんは頷いて、
「猫だよ」
と言った。
「三日間ほど預かる事になってね。真冬君は猫、平気かい?」
僕は床の上でネズミの玩具にじゃれついている猫をちらりと見る。
白っぽい毛並に濃いグレーの縞模様。秋宮さん曰く、アメリカンショートヘアーという種類らしい。
可愛いと思うけど、正直僕は生き物に馴染みがないからちょっと怖い。
小さい頃はお母さんが動物嫌いだったから触らせてもらえなかったし、お母さんがいなくなった後は外に出る事自体少なかったから犬や猫に触れる機会がなかった。