FLAP

□第1章
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階段を上ってくる足音で、あたしの気分がわかる───、と莉帆は言う。

「お? 智香ずいぶん上機嫌なのな」

あたしの足が刻む軽やかなリズムがはっきり聞こえてたようだ。
こういうときは決まって、学校の裏の踏み切りは静か。そんな遠慮してくれなくたっていいのに。
実はね‥、っておもむろに話を切り出して聞き手を驚かすのも「コイバナ」の醍醐味なんだし。まあ、面倒臭い説明が省かれたと思えばいっか。

「二宮ぁ?」

絶妙にニヒルな笑みを莉帆はわざと浮かべる。すると、こっちも「やだあ」と照れながら他愛のないお喋りを展開できる。きっと彼女は世界一の「コイバナ」の聞き手。スペシャリストだ。だから妙にクラスの恋愛情報に詳しいのにも納得出来る。元ヤンなのが否めないけど、彼女の仲間思いで口の固い性格はココからきているのだからよしとしよう。

「朝の120倍くらい幸せそうだったぞ〜? ほら白状しちゃえって!」

今朝は特別不機嫌だった。
理由は、久しぶりに訪ねてきたおばあちゃんがメロンなんか買ってきたから。
嬉しいんだけど、なんか、リアクションに困る。おおはしゃぎするのもアレだし。そしたら、お母さんが気を遣って「ありがとうは?」と、肘を小突いてきた。そうなるとお礼なんか言いたくても、言える訳ないじゃん。
今思えば馬鹿みたいだって分かるけど。

「ニノくんにチョコ! 渡せた!!」

白状すると、いつもあたしが消極的ことに苛立ってる莉帆は大袈裟に飛び跳ねて喜んだ。八重歯を覗かせて笑う姿が可愛い。

「うっそマジ?」

「マジ」

ここまで話したあたしは急に照れくさくなってきて、熱く火照った左耳の上で1つにまとめた髪をやたらいじった。そして早急に話題を変えようと「そういえば菜々は?」と訊いた。
すると、莉帆は急に怪訝そうな表情をして、なんで? と逆に訊いてきた。



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