小説
□少年のある一日
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俺は最近、登校時に車から途中で降りることが増えた。
理由は、ただ歩きたいのと、春だから。
窓を閉めきった車から出て、風にあたりたくなるのだ。
……あと、少しだけ、あいつに会えるかなってことも考えて。
今日もそんな理由で、家と学校のちょうど中間地点で車を降りて、登下校時刻には車が規制されている通学路を歩いていた。
まだ早い時間だったので、同じ制服の男子は4〜5人程度しかいない。
校門をくぐると、月華修学院の名物でもある桜並木が満開で、ときどき花弁がチラホラと舞った。
「(何度、この桜を見ただろうか……)」
エスカレーター式の学校なので、幼少の頃からこの桜並木を歩いている。
えーと、幼稚舎からだから、3年と6年と……。
「おはようございます、綾芽」
年数を数えていたら、声をかけられた。
「桔梗」
「桜が満開ですね」
桔梗が桜を見上げながら、嬉しそうに微笑む。
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