シュ

□愛の為にグランギニョルを。
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自分が自分じゃなくなるのは恐いよ…?

でもこのままじゃ…、駄目だから。

せめて…、お前を傷付けないために…この道を選ぶよ。








『愛の為にグランギニョルを。』


隣で規則正しい寝息を立てながら眠っているナナシの髪を透きながら俺はきっと酷い顔をしているに違いない。綺麗な黄金色をした細く柔らかい髪は重力に従い流れ落ちそんな当たり前の事にも愛しく感じ手放したくない、離したくないと黒い気持ちが渦巻いていている。
行為によって付いた朱の花に軽く触れ薄く笑いを浮かべる。自分自身を嘲笑うかのような渇いた笑い。温かいナナシの体温が伝わり俺は惜しむ様に撫で続ける。こうしたい、と本能かなにかに施されるがまま露になっている肌に舐めるように触れ続けた。
朝と夜の境目、空がうっすら明るく遠くでは赤と黒が綺麗に層を作っていた。

サヨナラ愛シノ人

ナナシの横たわるベットから立ち上がると軽く頬に唇を落とす。『最後』かもしれないな、とかって思いながらまだ夢のなかのナナシを揺する。別れとけじめの為に。こうしなければいけない、と何かの義務を感じた。
心の片隅では起きて欲しくないと願ってた。別れを告げるその時が来るのが怖くなって、ナナシが起きたらホントに離れたくないと思っていしまいそうで。それでも少なからず鈍感ではないナナシは低く唸った。

「んぅ……。」
「ナナシ…?」

うっすらと前髪の隙間から翠の目が見え隠れし、綺麗。寝汗で張り付いた前髪を払ってやり、目を細める。寝起きの半分、寝惚けた顔はヘラっと俺を見て笑い、可愛い。
ウォーゲームの休みの日は気が済むまで布団の温もりに包まれて幸せ。
本当に…何時も通りが良かった。

「おはよう。」
「んぁあ…、アルちゃんおはよ。」

いつもどうり、いや何か違う朝に苦笑いを送りながらナナシはゴシコシと目を擦り、欠伸をする。あぁ、あんまり寝れてないしな…、とかって思いながら手を離す。指先から熱が消えていくのが痛い程に分かり『ゴメン。』ついつい、控えめに謝る。ソレはどういう意味か、自分でも分からないまま、ナナシのより少し小さい手を振り上げ頬に落す。ただ自分の思い描いたストーリーを追うように。頭の中でなんども想像した、グランギニョル。ドクドクと自分の心臓が早鐘のようになり体は確実に生きた心地を感じていた。コノ感覚とも今では時間と言う有限を思考に刻みこんでいた。時間がない、俺には急がなければいけない理由があった。
俺は奴と、同種族になる。
いや正確にはならなきゃいけない、必然的な何かが有った。性格からか、奴に会うこと事態が過ちだったのかもしれない。確実に過ぎ去ったトキが戻ってくる訳などなく、刻々とソレは近付いてきていた。
パシン…。渇いた音が響くと同時に真っ赤に頬が腫れ目は見開かれる。口を開いてすぐまた継ぐんで、言葉を失ったかのようにただ、吐く息だけが微かな音になる。ヒューヒューと隙間風に似た声。すぐに朱に染まった頬には涙の筋が光り理不尽ながら美しいと思ってしまった自分。
泣かしたのは、俺がナナシに手をあげたのは初めてのことで。それ以前にナナシ以外の人間に触ろうとすら思わなかったので久しぶりの掌の焼ける痛みはなんとなく新鮮だった。

「…ッなに、をー……。」

やっと紡ぎ出された声は恐怖からの震えがひしひしと伝わってくる。涙の玉が溢れ一筋の痕になった。
無意味に謝り頬を叩き続ける。



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