シュ

□愛の為にグランギニョルを。
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桁違いな魔力を出し俺を惹き付けるのは安らぎも恐怖も何も感じないただ闇が広がるだけの場所。何も感じない。ソレはきっと現実を受け入れるのを体が拒否しているだけで、肌は痛いほどの魔力に震えていた。

「決心してくれたんだね。ありがと。」

魔力と共に何もない闇から表れたファントムは愉しそうな─…、俺を試すような笑いを浮かべながら歩み寄る。何を試しているのかは分からないが舐めるような視線が気持悪い。試すなんて、何故そんなふうに感じるのだろうか。ありがとう、ファントムの一言に小さく心が揺らいだ。ただの何気無い言葉だ。ファントムから言われさえしなければ感謝の気持を表すのに、裏を常に含む言葉はドロドロとした邪気の塊でしかない。例え違う種の言葉でもファントムの発するものはなんであれ不愉快だ。コイツの奏でる呪文のような意味の分からない言葉でも耳から脳を侵食するようで。吐気を覚えたこともある。見透かしたような赤い目が俺を捕え呪縛しているかの様に体が動かない。魔力に当てられたか、筋一本も動かす気が起きないが、口が独りでに動く。ソレは自分のものでは無いかのように淡々と。

「感謝される様なことした覚えなんかないが?」
「なに言ってんの?君が来てくれた。それも君から…。嬉しいよ?」
「…お前の為に来たんじゃあない。」




『俺とナナシの為だ。』
ポツリと呟いた声は闇の静寂に消え、声が奴に届いたかへぇ、と仮面の様な笑顔と一緒に返ってきた。取って付けたかのようなソノ言い表せない微妙な表情が俺がファントムの嫌いな理由の1つで、ますます不愉快になる。行き場の無い苛立ちを掻き消すように強い風が俺の頬を拭った。




コレが終りの始まり。

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