シュ

□愛の為にグランギニョルを。
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機械の様に、まるで心のない操り人形の様に。呪縛と呼べるかは分からないが細いテグスのようなものが心臓に絡み付き体を動かす。その糸を指先で遊ぶようにいじるのは神なのか。やけに正確に一定のリズムを刻むようにふりあげ、また頬に向かって落とした。

俺ノ事ナンカ嫌ッテヨ?

「アルちゃんっ…やめっ…、痛いぃ……。」

綺麗なナナシの顔は朱と涙で汚れ恐怖に目を見開く姿は決して美しくはないと感じた。でも動き続ける手は止まらず痛みをナナシの体に与え続けた。理由は…、嫌ってほしかった。行き急ぐ俺には時間がない。そしてナナシの生きている限りもう会うことも出来なくなるだろう。愛する人との別れが嫌ならいっそのこと俺のことなんか忘れれば良い。出会う前に戻れないのなら仕方がない、お互いを嫌い合えば影を追う事はないだろう。でもソレは踏み出す人が必要だった。ソレだけ、で泣かすのには言い訳にならない。本当は気持ちを分かって欲しい、そんな自分のエゴかもしれない。
だから俺は叩く。心を殺し、すぐにでも罪悪感に潰れてしまいそうな痛みを堪えて。いっそ壊れていまえば楽になるとさえ思えてしまった。

「何でっ、ひくっ…。」

いつのまにか俺の頬にも涙か滑り視界を濁した。涙は流れてもなんとなく心は静かだ。自分の涙の理由さえ分からないほどに考えることを拒否している。あぁ心は穏やかなんかじゃぁなく、麻痺しているのか。
結局、山程ある伝えたい思いなんて言葉にならず、壊れたレコードの様に同じ言葉を途切れ途切れに声にした。

「止めてぇ…なぁ─…。アルちゃんぅ─…!!」
「…ゴメン……。」

痛ミガ分カラナイ訳ジャアナイ
痛イノハ嫌
傷付ケタクナイ
傷付キタクナイ

シンと静寂が戻った。どれだけ叩いただろうか、真っ赤に染まる俺の手とそれよりも濃い赤がナナシの頬を痛々しそうに見せた。泣き疲れて眠りに着いたナナシの顔はみていられない程でただ…腕に伸びるタトゥを呪い、この道を選んだ自分を忌ましめるために…コレが正しかったことを証明するために部屋を出た。
本当に最後、熱を持った頬に口付けをして。



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