長編部屋

□序章 地獄の窯の中
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暗闇。
そう、そこは暗かった。
電気がない訳ではない。
私から見た景色が暗いのだ。
理由として、人形がひしめいている事があげられる。
サイズは普通の人間のサイズを100とした場合、この人形達は45くらいの大きさ。
それらが文化会館程度の大きさの大ホールにひしめき合っている、と言えばなんとなくここの異常さがわかると思う。
そしてこの私、中級の悪魔人形を統べるがどの文献にも存在しえない異常な存在として認知されている死遼虹(しりょうこう)ですら、やはりこの軍勢――郡体の内の一体なのだと思い知らされる。
とにかく早く終わって欲しい。と私は思うが、思い通りにはならない。
当然だ。
所詮私は中級の悪魔最上級なのであって、上級ではないからだ。

「はぁ、早く終わらないかしら。」

そう分かっていても、やっぱり口癖のように呟いてしまう。
なんといっても季節は夏。
温度を認知する機能が付いている自分にとって、エアコンの効かない大ホールに閉じ込められるなど、地獄でしかないから。
要らない機能をつけやがって、と頭の中で父親であるイスラエルの王、ソロモン王をなじる。

「死ぃちゃん、どしたの?」

と、ひょこっと脇から頭を出す、身長の低めな私よりもさらに
長い銀髪を横に垂らして、はてなを碧の目の中いっぱいに浮かべてこちらを見ているこの少女人形は私の大切な親友だ。

「あら孔雀じゃない……早く終わらないかしら」
「あは、そんな死ぃちゃんに素敵なお知らせっ」
「何?」
「ジャジャァーン」

と、口擬音付きで孔雀が取り出したのは携帯電話。
人形サイズにまとまっているという事は、孔雀が開発したのだろうか。
画面は点灯している。

「携帯じゃない。……まさか、通話中?」
「電話口はルキフゲだよぅ?」

差し出される携帯を急いで取る。
もし本当ならば待たせてはならない相手だからだ。

「もしもし?」
《死遼虹、久しぶりですね》

本当だった。
判断は間違ってなかったと私は私を褒めて安心する。
ルキフゲ・ロフォカレ。
ここに集まった全ての人形の、目的である、彼女が主催する会議が、ここだ。

「……会議を始めて欲しいのですが」
《え、勘弁。私は今そちらにはいないのです。強いていうならば、死遼虹、貴方の屋敷でいふと遊んでい――死遼虹さまぁっ♪》

いきなり声が代わった。
その声はルキフゲの言動を考慮するならば、

「いふ?だめよ勝手に電話取っちゃ」
《えー、でもルキフゲ様超笑顔ですの》
「……あなたがかわいいのよきっと」

正直にいうならば、ルキフゲの笑顔は他人には分からない。
常に無表情なのだ。彼女は。
それが恥ずかしいとかで、常に仮面をしている。
いふには表情が分かるらしいが。
デカラビア・IF。悪魔人形の中でも試作二号という特殊な役回りの人形だ。
他の悪魔人形の試作は破壊されてしまっているからだ。
『いふ』と呼ばないと返事が来ないというのは少し困るが。
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