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□朝顔の種を植えようか/黒子のバスケ
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「…スタメンは以上だ。」
「おい…マジかよ。」
「入ったばっかの1年が7番?」
「おいやめろって…ヒロに聞こえんだろっ。」
『…。』
部活後のミーティングでIH予選のスタメンが発表された。
監督の口から発さられた言葉に周囲が驚くが、一番驚いたのは俺の方だ。
別に体を壊した訳でもない、調子が悪いわけでもないのに3年になってスタメンから下ろされた。
信じられるか?
入部してからずっと付けてきた7番をキセキの世代とか言う胡散臭い新入りにあっさり持ってかれるなんて…。
ミーティングも終わり各自部室に戻っていくが、納得がいかない俺はまだ体育館に残っていた監督の元へ駆け寄った。
『監督!納得のいく理由をください!』
「納得も何もないだろうが。
これが現実だ。お前より黄瀬の方がチームで役に立つと俺が判断した。」
『そんな…入部して一週間も経たないのに黄瀬を全て理解して言ってるんですか!』
「…。自分のことしか考えないやつはこの部に相応しくない。
スタメンだけにしがみついている様な奴に7番は勿体無い。
スタメンじゃなければ駄目ならもう部活に来るな!」
『ッ!はぐらかさず質問に答えてください!』
「はぐらかすもなにもさっき言ったのが俺の答えだ。
何つっ立ってんだ早く出て行け!」
『…お疲れっした。』
キセキの世代だから贔屓してるんだ。
そうに違いない…何だよずっと信頼されてるのかと思ってたのに俺だけしか思ってなかったのかよ。
走って体育館を出てからとぼとぼと重い足取りで部室に向かった。
***
部室に戻るともうみんな帰ってしまったのか、中には誰もいなかった。
一列だけつけられた蛍光灯のせいで部室内は薄暗い。
節電ブームのおかげで俺の心は余計に暗くなった。
汗で湿った練習着を脱ぎロッカーを徐に開ける。
制服を着る前にタオルで汗を拭こうとロッカーの中からタオルを取ると、その下にあったユニフォームが目に入った。
『…。』
このユニフォームも、もう要らないんだよな。
ユニフォームを手にとってじっと7の数字を見ていたら、沸々と感情が湧いてきて思いっきりそれを床に投げつけた。
マジで辞めてやる…。
汗ばんだTシャツらと共にロッカー内の物を鞄に勢いよく滑らせた。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれた鞄はチャックが閉まらない。
「おい、何してんだ。」
『笠松…何でいんの。』
「自主練してたんだよ。
それより何してんだって聞いてんだ。」
笠松は部室のドアを開けたまま、入口で腕を組みながら立っていた。
彼にはいろいろ世話になってるから…挨拶くらいしといた方がいいのかもしれない。
『見りゃ分かんだろ、ロッカー片してんの。
俺…部活やめっから。』
「はぁ?!」
『お前耳遠くなったんじゃねぇ?
やめるって言ってんの。
どうせ試合行ったって出れねーし?
そんなら受験勉強してる方が効率いいだろ。
時間…勿体無ぇし。』
「それ、マジで言ってんのか。」
みるみる笠松の顔が険しくなってくる。
そりゃそうだ。
俺今すっげぇ嫌な奴だもん。
『マジだよ。俺笠松たちみたいにバスケにそんな熱くないから。
ひでーだろ?すっぱり諦められんだぜ?』
「…嘘つくなよ。」
『嘘じゃねぇよ。監督もやめろってさ。
さっきは反発したけど今なら分かる。
俺簡単に仲間を捨てられるんだ。
あー戦力外て言われてたからそん時からもう仲間じゃねぇのか。
馬鹿だよなぁ…全然気付かなかった。
俺だけそう思ってたんだよなぁ。』
「やめろ…。」
『笠松頑張れよ?IH行ったら見に行くかもしんねーから。
練習ももう行かねぇし会うのも少なくなるかもな…ッ!』
ヘラヘラしてないと泣きそうだった。
必死で言葉を選んで笠松に話していると、どんどん近づいてきた彼は力強く俺を抱きしめた。
「もう何も言うな!
泣きそうな顔で言ったって説得力ねぇよ!」
『ッ…やめろッ!』
「やめねぇ!」
家に帰るまで絶対泣かないと決めていたのに、ぷちっと緊張の糸が切れた。
それと同時にぶわっと涙が溢れてきて、それを拭うこともせず床にへたり込む。
俺よりだいぶ背が小さい笠松は、さっきは出来なかったんだろう俺の頭を自分の胸に押し付けた。
後頭部を撫でられ、背中をぽんぽんと叩かれる。
去年は俺が笠松を慰めたのに、今年は逆かよ…格好悪い。
『うッ…ふぅ…ッ……。』
「泣くくらいなら、やめるなんて言うな。
スタメン下ろされただけでレギュラー落ちじゃないだろうが。
監督も言いすぎたってさっき言ってたぞ?
今までお前に助けられた場面は山ほどあった。
黄瀬に7番取られたかもしんねぇが…俺の相棒はいつでもお前だ。」
『か、笠松ッ…んなこと今言うなッ!
……惚れるからッ…。』
「俺はもうお前に惚れてるよ。」
そう言うと笠松は、グリグリ俺の頭を撫でてからその手を離した。
ずっと彼の胸板に埋めていた顔を上げると、へへっと照れくさそうに笑う彼の顔が俺を釘付けにさせる。
その顔を見て何か暖かい感情が全身に込み上げてきて、思わず彼の唇にキスをした。
「なッ!!」
『なんかキスしたくなった…嫌だった?』
「いや…つかさっきまで泣きじゃくってた奴がッ…くそ不意打ちは反則だろッ!」
照れながら怒る彼の背中に手を回してぎゅっと抱きつくと、彼は俺を引き剥がしてそっぽを向いてしまった。
「明日も朝練だろうが!もう帰るぞ!」
『うん。なぁ…笠松。』
「何だ。」
俺に背を向けたまま笠松は返事をする。
けど、彼の耳が真っ赤で…それだけで頬が緩んだ。
『名前で呼んでいい?』
「…2人の時だけな。」
『それなんか特別っぽくていいな。』
「だろ?」
『うん。』
笠松が制服に着替えている間に、俺は鞄の中からロッカーの物を戻しユニフォームを黄瀬のロッカーに入れた。
「終わったか?ほら…帰っぞ……ヒロ。」
『幸男…キスしていい?』
「はぁ?ダメだ!」
『な、何でだよ!』
「いろいろ耐えらんねぇだろうが!
キスは一日一回だ!」
『えぇ?!』
こんな奥手な笠松だけど、俺たちの初体験はあと数日後だということはこの時の俺は知る由もなかった…。
end...
朝顔の花言葉は「愛情」「平静」「愛情の絆」「結束」だそうです。
ぴったりですね!←