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□Fetters/PYSCHO-PASS
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この数カ月で…俺たち公安局刑事課の内状は激変した。

殉職した縢と征陸さん。

槙島を殺すために公安からいなくなった狡噛さん。

そして宜野座さんが執行官落ちしたこと…。

プライドの高い宜野座さんなら公安から出て行くのかと思っていたが、彼は今日から俺と同僚になる予定だ。

はっきり言うとどう接していいか分からない。

前から執行官を寄せ付けない態度をとってたから、話しかけようにも出来なかったのだ。

狡噛さんは元同僚と言うことで結構親交は深かったようだけど…。

彼が居たら少しは場も和んだのかもしれない。

そんなことを考えても、もう頼れる人はいなくなってしまったんだ。


「ヒロそんな顔しないでよ。

こっちまで悲しくなっちゃうわ。」

『ごめん…。

でも一気に3人も仲間を失うときついよ…。』

「…。」


常守監視官と宜野座さんを待つ間、六合塚と事務所でコーヒーを飲んでいた。

彼女はそこまで心の傷は深くないようで…。

俺のメンタルが弱いだけなのだろうか。


「宜野座さんも今日からよね。」

『うん。どう声をかけたらいいか…。』

「そんな慰めの言葉なんていらないんじゃないかしら。

私なら絶対にいらない。」

『でも凄く傷ついてるに決まってる。

征陸さんをあんなかたちで失って…。』

「もう…そんなネチネチ考え込むから色相が濁るのよ。

もっと楽観的に考えてみたら?」

『そうは言うけど性格なんてそう簡単に変えられるものじゃないよ。』


カップに入っていた覚めてかすかな風味もなくなった味気ないコーヒーを飲み干した。

デスクにカップを置き、ふと右隣の席を見る。

狡噛さんの席だったそこは、今は宜野座さんの物が置かれていて必要最低限の物しか置かない彼の机周りは小奇麗だった。


ピピッ


『こちらハウンド4。どうしました?』

「廃棄区間に応援要請が出ました。

準備をお願いします。」

『了解です。』


コールは常守監視官からだった。

局内アナウンスは無かったように思うんだけどと思いながら六合塚にもそれを伝え2人で準備を始める。




***



「ではこれから向かいますので。」



そう言って常守監視官は護送車のドアを閉めた。

車内には俺と六合塚と宜野座さんが乗っている。

別段話すこともなく無言のまま十数分待っているとドアが開いた。

俺達は素早く車を降りて早速ドミネーターを手に取る。


『今日は2課と合同?』

「引き継ぎでしょうね…。」


監視官同士で何やら話し合っているようで、俺らは待ちぼうけを食らう。

数分後、常守さんが俺たちの元に駆け寄ってきた。


「廃墟に立てこもっている潜在犯がいるようです。」

『複数ですか?』

「そこまでは…場所は確定してますので今から行きます。

六合塚さんは私と来てください。

宜野座さんと森崎さんは反対方向からお願いしますね。」

『えっ監視官がいなくてもいいんですか…?』

「許可が下りてますので大丈夫ですよ。

ではよろしくお願いします。」


常守さんはそう言うと早速六合塚と行ってしまった。


「行くか。」

『あ、はい。』


少しぎこちない返事をしてしまったが、俺たちも目的地に向かった。





***



目的地まで移動している最中、彼は左手を頻りに気にしていた。

まだ義手がしっくりこないのか…それとも痛むのか。

俺は心配になって声をかけた。


『宜野座さんまだ馴染みませんか?』

「ん?嗚呼…まだリハビリが必要だが利き腕ではないから支障はない。」

『余計な心配でしたかね…。』

「いや…ありがとう。」

『!』


俺の思い違いだろうか。

彼が誰かに「ありがとう。」と言ったところを見たことがない。

吃驚して立ち止まると、宜野座さんは不思議そうな顔をしながら俺の方を振り返った。


「そんなに驚くことか?」

『い、いえっ!』

「…狡噛からよく聞いていた。

君は潜在犯とは思えないくらい優しい心の持ち主だと。

強ち間違いではないみたいだな。」

『そんなことを言ってたんですか!』

「ふッ…行くぞ。彼女たちはもう着いている頃だ。」

『あ、はいっ!』


俺は悪い方向に考えすぎてたみたいだ。

宜野座さんは今の状況を理解して、適応している。

いや、しようとしているのか。

表情も柔らかくなっていて、微笑んだ彼を見て俺も表情が崩れた。



***



「今日はお疲れ様でした。

ゆっくり休んでくださいね。」


報告書も提出し、今日の仕事は終了した。

宜野座さんは相当疲れているのか席を立とうとしない。


『宜野座さん…大丈夫ですか?

歩けないなら俺、部屋まで送っていきますよ。』

「いや…少し休めば大丈夫だ。」

『じゃあ部屋でゆっくり休んだほうがいいですよ。

明日は非番ですよね?リハビリもあるなら尚更すぐ休まないと駄目じゃないですか。』

「…。」


観念したのか彼はため息を吐きながらデスクに手をつき、ゆっくりと立ち上がった。

歩けそうになかったらおんぶしてあげようと思っていたけど、そこまで状態は悪くないようで宜野座さんはゆっくりと歩き出す。

彼の横に並んで歩くと、彼は視線を下に下げてしまった。


「見苦しいところを見せてしまったな。」

『そんなっ!』

「本当に今日一日お前には迷惑をかけた。」

『いえ、どんどん俺を頼ってください!

本当はあなたが監視官の頃からそう思ってたんです。

でも俺と居ると迷惑がかかるでしょう?』

「…そうか。」

『…はい。

ですから何でも言ってください。

相談も愚痴も何でも聞きますよ。

常守監視官には言いづらいこともあるでしょうし。』

「嗚呼…お前が居てくれて助かるよ。」

『へへッ…なんか嬉しいな。』

「…。」


エレベーターが来るのを待ちながら、その後も2人でぽつぽつと今まで出来なかったくだらない話しをした。
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