2
□Betrayer/PSYCHO-PASS
1ページ/4ページ
『槙島ってさ、本当はコウと仲良くなりてーんじゃねぇの?』
「…急に何だ。」
病室のベッドで寝ているコウは、苦虫を潰したような顔をした。
それに構わず俺は話を続ける。
『最近の槙島のやってることはコウに仕掛けてる部分が多いと思わないか?
今回の件だって…朱ちゃんを標的に見せかけて狙ってたのはお前だったろ。
…あいつはコウが地下に一人で来るって見越してた。
それってそうとう相手のことを知ってないと分かんないことじゃねぇ?』
「…どうだかな。」
『あいつのやってきたことには全て意味があっただろ?
でさ…最近思うんだ。
俺が執行官じゃなく普通の潜在犯だったら…あいつの仲間になってたのかもなって。』
コウは勢いよくベッドから上体を起こして、俺を睨みつけた。
「冗談でもんなことは言うな!」
『ッ!んな怒ることないだろ!』
コウは本気で怒っているようで、この話はここで打ち切った。
でも俺は、槙島の数々犯してきた犯罪は全てシビュラシステムの盲点を突いているところなんか素直に凄いと思う。
これも口に出すと酷い事になりそうだから言わないが、さっき言った冗談は半分本音だ。
俺がこんなことを考えてるなんて誰も知らない。
シビュラシステムが人の心の中まで覗けなくて本当によかったよ。
『まだ傷口塞がってないだろ?
俺もう行くからもう休め。』
「…。」
『なんだよ。そんな怒んなよ…。』
むっとした顔をしたまま俺を見上げている彼の口に軽くキスをして病室を後にした。
あー志恩がこの部屋をモニタリングしてるんだっけ…嫌な場面を見せてしまったかな。
***
数日後
シフト終わりにいつもどおりコーヒーを持って分析室のドアを開けた。
今日は志恩との雑談の他に、もうひとつやりたいことがあって訪ねたんだけど、果たして彼女は許してくれるだろうか。
『志恩。モンタージュの記録って見せてもらえたり…する?』
「見せたでしょう?」
『槙島の画像だけな。
あいつがどんなことを言ってたとか少しでも知りたいんだよ。』
「めっずらしい…。あんたが捜査に積極的だなんて気味が悪いわ。」
『どんな嫌味でも聞くから見せてくれってー。』
志恩に何度もお願いすると、すごく嫌そうな顔をしながらも了承してくれた。
「もう…またパスワード変えなきゃなんないじゃない…。」
『今度肩たたきしてやるよ。』
コーヒーを持たない手で彼女の肩をポンポンと叩くと、相当嫌だったのか手を払われてしまった。
デスクワークばかりで肩も痛くなるだろうという俺の思いやりは、どうやら違う解釈をされたらしい。
「いらないわよ…私をおばさん扱いしてるけど、あんたと歳そんな変わんないんだから。
ちょっと待ってなさい。今ファイル開けるから。」
『本当ありがとな。
あと…この事はコウには言うなよ。めんどくせぇことになるから。』
「なぁに?面倒くさいことって。」
『いろいろあるんだよッ。』
「はいはい。」
ファイルを開いたのか、彼女がプレイボタンをクリックするとモニターにモンタージュされた朱ちゃんの記憶が映された。
瞬間的に映し出される彼女の記憶から槙島の部分だけをピックアップしておいたらしい。
再編集された動画はすごく短く、その中で数秒映った槙島が朱ちゃんの友人を殺す映像を見たとき、俺が兄を殺した時のことをふと思い出した。
ナイフで喉を掻っ切ったあの感触が、臭いが、音がフラッシュバックしてきて、少し体の力が抜けて手に持っていたコーヒーカップを床に落とす。
プラスチック製だから壊れはしないが、床に飲みかけのコーヒーが飛び散った。
「ちょっと!どうしたの!?」
『ッ…ご、ごめん。もう1回だけ見ていい?』
「え?…ちょっと本当に大丈夫なの?顔色悪いわよ?」
『これで最後にするから。』
「…わかったわ。」
リプレイされた動画を目を凝らしてもう一度見る。
無表情のまま…彼女を殺す槙島に何故かゾクゾクした。
俺は兄を殺す時…彼のように冷静だっただろうか。
憎くて憎くて我慢出来ずにボールペンで寝込みの兄の首を胸を頭を滅多刺しにした後、ナイフで首を切り裂いた時の変に高揚した気持ちが蘇る。
『参考になったよ。…ちょっと頭冷やしてくる。』
「あんた今何考えてんの。ちょっとッ!待ちなさいッ!!」
ガチャン
志恩の呼び止める声を無視して部屋を出た。
行き先を決めぬまま歩きながら、ふと幼少の頃を思い返す。