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□Confusion/PSYCHO-PASS
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『ギノ…チーム分けって上がしてんの?』
「…何故だ。」
「ヒロはコウと一緒のチームじゃないって文句たれてんすよ!
まぁ?あっちの方がベテラン揃いではあるけどさ…それってひどくねぇ?」
図星すぎて何も言えないでいると、ギノはゴホンと咳払いをした。
こう言っちゃ悪いけど、ギノは朱ちゃんよりも推理が出来ない。
そのくせ執行官の提案には食ってかかるから少し面倒なんだけど、文句を言いたいのはそれだけで彼は最高の上司だ。
「足でまといはあんただけよ。」
「はぁ?俺はちゃんと仕事してるっつうの!」
『このチームに居るのが嫌って言ってないだろ!
弥生も秀星逆なでするようなこと言うな!面倒くさくなるから!」
「…お前ら仕事に集中しろ。」
『「…。」』
ギノに促され護送車に乗り込む。
この閉鎖的な空間は執行官になる前のあの施設を連想させてあまり好きではないが、それはみんな同じなんだろう。
秀星は俺の隣に座って間もなく貧乏ゆすりをしていた。
『朱ちゃんとうまくいってる?』
こそっと秀星に問いかけると、彼は首を横に振りため息をつく。
それを見た弥生がクスクスと笑っていたけど、彼にとっては笑い事ではなかったようだ。
「ぜんっぜん!
いい子なのは分かってるんだけどさーいい子すぎて?
イラつくときがあって付き合うのは無理だわ。」
『いい奥さんになってくれそうな女性ではあるよね。
気が強すぎるのはあれだけど。』
「男は女に理想を押し付けすぎなのよ。」
「えー?女だってそうじゃん。」
弥生と秀星が言い合っているのを聞きながら、ふと俺の理想的な恋人を思い浮かべてみた。
…浮かばない。
小さい頃は優しくて俺を甘えさせてくれる人とかだった気がするけど。
コウはたまに意地悪だし、そういえば甘ったるい雰囲気になったことないな…なのになんでこんなに好きなんだろう。
つーか俺とコウが甘ったるくいちゃいちゃしてたら、それはそれで気持ち悪いな。
「何ニヤニヤしてんの。
まったコウの事考えてたんだろ。」
『考えてねーよっ!』
「ヒロの始めてもらったのは俺だかんな。
つーか俺が付き合ってって言ったら断ったくせに…。」
『秀星…。』
弥生が居るところで何を言ってるんだ。
まぁ彼女は口が硬いから他に漏らすことないないと思うけど…。
「俺朱ちゃん朱ちゃんって言ってたけどさ、ヒロに告白されたら即OKする準備はしてたんだぜ?
なのにコウに告白するかよ…取り返したくてもできねぇじゃん…。」
「縢も苦労してるのね…。」
『なんか俺…小悪魔女子みたいでごめん。』
「今このタイミングでボケる馬鹿がどこにいんだよ!
俺結構マジだったんですけど!?」
秀星は口では怒っていたけど、その後一人で腹を抱えて笑っていた。
ころころ機嫌が変わって見てて飽きないけど、それって人として大丈夫かと少し心配する。
その後も3人で雑談をしていると、目的地についたのか車が一瞬大きく揺れて止まった。
数分後ギノが扉を開けて、俺たちはやっと外に出て新鮮な空気を吸う。
「気を引き締めていけよ。」
『了解ー。』
ドミネーターを各自持ち出し最終確認をしていると、ギノが俺の肩をポンっと叩く。
何事かと後ろを振り返ると、彼の表情が少し曇っているように見えた。
『ギノ?』
「……俺はやはり頼りないか?」
『…は?』
「いや…さっき…。」
『馬鹿だなッ!違うって。
秀星が冗談言っただけだっての。
俺はギノを尊敬してるし、いい上司だと思ってる。
いつもの強気なお前はどこに行ったんだ?』
「…。」
こんなに弱気になっている彼を見たのは初めてかもしれない。
しかも仕事の直前に…何かあったんだろうか。
『ほらっ仕事に集中しろって俺たちに言った本人がそんなんじゃまた秀星にいじられるぞ?
…ギノは推理出来なくてもいい。
そのために俺らが居るんだし、ギノが推理して犯罪係数が上がったらダメだろ?
コウたちには悪いけど、お前にはそうなってほしくない。
俺は監視官はギノがいいんだ。朱ちゃんはまだ頼りないし…。』
「ヒロ…。」
『プレッシャーかけたか?』
「いや…悪かったな、急にこんなことを言って。」
『いえいえ、ギノの本音を聞けたみたいで嬉しかった。
今日は簡単な仕事だけど頑張ろうぜ?』
「嗚呼。」
少しぎこちない笑みを俺に見せて、ギノは先に行ってしまった。
彼に申し訳ないと思いつつもこっそり背中にドミネーターの照準を合わせると、前より少し悪化していることに気づく。
朱ちゃんは特殊体質なようでストレスケアをしなくても正常値でいられるようだが、彼は違うようだ。
気持ちが落ちると色相にも影響するらしいし、なんとか力になりたくても俺にはどうしようもない。
『なぁ秀星…シビュラシステムってなんなんだろうなぁ。』
俺の少し離れたところでぼーっとつっ立っていた秀星に軽い気持ちで話しかけた。
だが、彼にはそうは聞こえなかったようで一瞬眉間に皺がよる。
「何しんみりしてんだよ。
この時代に生まれたんだ…仕方ねえよ。
産んだ親を恨むことしか今の俺たちには出来ねぇし。」
『秀星は5歳からだっけか。』
「ヒロはいつだっけ?」
『10歳くらいだったかな。
あん時すぐ死んでればこんな苦しまなかったのにってたまに思うよ。』
「…恋人いんのにそう思う訳?」
秀星が不思議そうに聞く。
潜在犯のコウだが、ずっとそうだったわけじゃない。
佐々山の事件の時以来だから、はっきり言うと彼とはそういう共感は得られない。
心の奥の黒いドロドロした気持ちはどうやっても理解されないんだ。
『秀星だって分かるだろ…のうのうと明るい世界で生きてたやつに、俺達の気持がわかってたまるかって。
同情する奴らの…心の奥では俺たち見下してるあの目を見るたび、何度殺してやろうかと思った。
そんなこと思うからサイコパスも濁るんだって今なら思うけど、更生しようにも俺たちにはそのチャンスさえ与えてくれないだろ?』
「回りくどいな…でもコウが好きなんだろ。」
『好きだよ。あいつが監視官のころからずっと好きだった。
この気持ちに嘘はない。』
「矛盾してんじゃん。
コウだって明るい世界でのうのうと生きてた一人だろ?」
『そうだとしても、決定的に違う所があるだろ?
俺たちを一人の人間として見てくれた。』
秀星はその回答が気に食わなかったようで、ギロっと俺を睨んだ。
「そんな理由で簡単に好きになれんのかよ!?
お前頭おかしいんじゃねーの!」
『お前にどうしてそこまで言われねーといけねぇんだよ!』
秀星の言い方に腹が立ち、俺も彼を睨むといきなり胸ぐらを掴まれた。
ほんとこのガキ…一発殴らないと落ち着かないのか。
「俺は!…ずっとヒロが好きだったのに。
俺がここに来た時にはもうコウが好きだったんだろ?
何しても俺の方に振り向いてくれなくて、体を奪えば心も自然と手に入ると思ってたけど実際は違った。
俺本当にお前が好きなんだよ。
今度は心から好きになってもらうように頑張るから。
俺超諦めの悪い男だから覚悟しとけよ?」
『えっいや困るって。
俺コウと…。』
言いたいことを言い終えたのか、秀星はバッと俺を突き放し俺に背を向け歩いて行ってしまった。