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□Naivety/PSYCHO-PASS
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非番になるとまず寄る場所がある。

今日もシフト終わりに廊下のコーヒーサーバーからコーヒーを取り、迷うことなく公安局総合分析室のドアを開けた。


「まぁーた来たの?」

『明日の朝まで非番なんだよ。』

「まぁいいわ。座りなさい。」


薄暗い室内の隅っこに一つだけ置かれた、邪魔もの扱いされている椅子は俺の愛用品だ。

毎日のように来てるから埃もかぶっていない椅子を、ガラガラと音を立てながら彼女の隣に移動させコーヒーをこぼさないように座る。

彼女はまだ仕事中のようだがそんなことは俺には関係ない。


「で?何かあったの?」

『コウがさ、セックスさしてくんねーんだよ。

キスまではやらせんのに、そこで終わり。

普通もっと、こう…深いとこまで行きたいじゃん?

なのに絶対そこでやめんの。そんな無駄な時間を過ごすなら筋トレしてるほうがましだとか言ってさ。

で、俺は考えた。…あいつインポじゃねえかって。』


俺が少年探偵ばりの推理を志恩に話すと、彼女はタブレットを打つ手を止めて俺の方に体を向けた。


「…彼はインポ面ではないと思うけど。」

『インポ面って何だよ。聞いたことねーよ。』


煙草を吸いながら優雅に足を組んでいる彼女の隣で、俺はズズズッと音を立てながら味気ないノンカフェインのコーヒーを飲む。

インポって顔に出るのか?彼がそうじゃないならどんな人がインポなんだとか不謹慎な事が頭をよぎる。


「彼に落ち度はないわよ。完璧人間でしょ?執行官じゃなきゃ今頃そこら中の女たちがあいつを狙ってるわ。

逆にあんたに落ち度があんじゃないの?」

『え?』

「あんた見るッからに色気ないものね。」

『う、うるせぇよ。

男に色気なんてあってたまるかッ!』

「えぇ?まぁあんたにはないけど、慎也くんにはあると思うけど。

それに…あんたは元からゲイだけど、彼は違ったじゃない?

やっぱノンケには厳しいんじゃいの?キスまでは出来てもケツに入れるのは抵抗あるでしょうよ。」

『そこを言ってくれるなよ…。』


まぁここまで本音で言い合える人は彼女しか居ないから、とても有難いことなんだけど。

やっぱ無理だったのかなー…。


「キスだけでもしてくれるんだからいいじゃない。

下手したら傍にも居させてくれないわよ?」

『秀星は普通にセックスしてくれたけどな。』

「なッ、それコウ知らないわよね…。」

『知らないも何も付き合う前だから問題ねーよ。

秀星だって今朱ちゃん落とそうと必死じゃん?』

「あんた…コウとセックスできればそれでいい訳?」


返す言葉が見つからず時間稼ぎに残り少ないコーヒーを飲み干し、空になったカップの底を眺める。

それを見た彼女は、呆れたようにため息混じりの煙を吐いた。


『そうじゃない…と言えば嘘になるけど、コウのこと本当に好きなんだ。

女と違ってセックスは非生産的だけど、でも普通に会話してるよりも確実に愛は確かめられるだろ?

コウだけなんだよ、監視官で俺を普通の人として見てくれたのは。』

「その感情と好きは違うと思うけど?」

『んなこと言われたって分かんねぇよ…でも、コウを見るだけですげぇキュンキュンするんだ。

これって恋ってやつだろ?』

「さぁどうだかね。」

『えー俺よりそういうの経験多いだろ?教えろよー。』


無駄に美人でセクシーな彼女は、絶対凄い恋愛をしてきたに違いない。

そう思って武勇伝を聞き出そうとしても、絶対に口を割らないのだ。


「そこまでしたいなら、夜這いでもしたら?

まぁ彼の寝込みを襲うなんて、最高難易度のミッションだわねぇ…。」

『それで勃たなかったらどうすんだよ…。』

「そん時はそん時よ。」


夜這いか…志恩が考える悪知恵だけは俺でも頭が上がらない。

伊達に俺よりサイコパスが濁ってるな、と何も考えず彼女に言ったら頭を思いっきり叩かれた。


『じゃあ今日やってみる。』

「そういう時のあんたの行動力を現場で発揮しなさいよ。」

『うん。今度からね。』

「嘘つきは嫌われるんだから。」

『みんな嘘つきだから大丈夫だって。』


カップをゴミ箱に捨て椅子を元の場所に戻し、部屋を出た。

夜這いなんてどうすればいいんだろう。

コウも俺と同じシフトだから夜は確実自室で仮眠をとるだろうと予測し、深夜に夜這いをするべくそれまで自室で待機した。



***


AM2:00


俺は今ソファーで眠っているコウの目の前に居る。

ベッドで寝てないのは想定外だ。

この場合どうやって襲うのか?

嗚呼、志恩にもっと深くアドバイスをもらっておくべきだったよ。

まぁでもちんこ触れば夜這いは成功だろうと彼の股間部分に手をかける。


「おい何してんだッ!」

『えっ…夜這い?』


スラックスに触れる前にコウに見つかってしまった。

この野郎…せめて触ってから起きろよ。

つーかこのタイミングで止めに入るとか、こいつずっと前から起きてたな。


「いつまでやってんだ。さっさと離れろッ」

『いでっ!』


コウに突き飛ばされて、床に尻餅をつく。

なんでそこまで嫌がるんだよ、てかまだ触ってもいないのに!


『んな拒否しなくてもいーじゃんか。

つーかそれなら、なんで俺と付き合うって言ったんだよ。

…期待させんなよ。俺だって心はあるんだ…傷つくんだ……。』

「ヒロ…、…。」


いくら傷ついても涙はでない。

だから泣いて同情を得ようとすることも出来なくて、床にへたり込んだままじっと下を見てるしかなかった。

コウが必死にフォローしようとしているが、かける言葉もないのか沈黙が続く。


『いい。もう別れよう。

始めから無理だったんだ。』

「…。」


無言の肯定というやつなのかこれは。

何秒待ってもコウは何も言ってくれなくて、俺はこの雰囲気に耐え切れず彼の部屋を飛び出した。

悲しいことに俺の自室は彼の隣。

ドラマチックに顔を悲痛に歪ませながら廊下を走るなんてこともなく、数秒で部屋に到着してしまう。

ドアに八つ当たりをすることもなく静かに部屋に戻り、その足を止めずに寝室に入ってベッドに潜り込んだ。


『はぁー…勃つ以前の話だろ、別れるって。』


あーもう寝よう。

いくら引きずったって意味がないし、それに数時間後にはシフトが入ってる。

失恋のショックは計り知れないくらいあったと思っていたが、寝ようと思えば3秒で寝れる俺の特技が遺憾なく発揮されうじうじ悩む間もなく眠りについた。



***


ーあっ、コウダメだってそんなとこ舐めたらッ!ー

ー駄目じゃないだろ?ー


『ッ!』


目を開けるとコウの部屋ではなく俺の部屋の天井が目に入る。

あー夢か、と無意識に股間に手をやるといつもの感触とは違った骨ばった感触が…。

おかしいな…と布団を捲ると俺のチンコを扱いているコウが居た。


『ちょあっ!コウ!?』

「いつまで寝てんだ。」

『えっえっ何?まだ寝てんの俺!?』


俺の股間と一緒にコウを見たことがなくて、まだ夢なんじゃないかと錯覚する。

が、性器が変に温かいからこれは多分現実だ。


「泣いてるかと思ってきてみたら…お前寝るの早いな。」

『俺ベッドに入ったら3秒で寝れるから…ってそうじゃなくて!

この状況が理解出来ないんだけど。』


なんだかずっとチンコを握られたまま会話するのも恥ずかしくて、やんわりと彼の手を掴み俺から離す。

パンツを穿き直しながら上体を起こしてベッドに座り直すと、彼も俺の隣に腰掛けた。


「お前が何を考えてるのかは知らないが、俺だって男だ。

好きな奴とはセックスしたい。」

『…なら何で拒否んだよ。』

「俺が入れられる側だったらいろいろ立ち直れねぇだろうが…。」


ぼそっと一言そう言いながら、じっと床を眺めているコウの手を握る。

一瞬彼の手がビクついたが気にしない。


『おま…可愛い奴め。それで拒否ってたのか。

大丈夫。俺が入れられる側だから。

つーか俺がコウに入れるとか考えたことも無かったわ。』

「んじゃ、決まりだな。」

『何が?えっ!…んぅ!!』


コウに胸板を押されベッドに背中から倒れる。

間髪いれず彼は俺に跨りキスをしてきた。

いつも唇に触れるだけの蛋白なキスしかしてなかったから、コウの舌で口内を犯されるのは始めてで体が硬直してしまう。

何もできずに彼の背中の上で手をまごまごさせていると、彼の手が俺の服の中に入ってきた。

彼の手が俺の乳首を掠った瞬間、ビクンッと体が海老反りになる。


「おいおい、まだ何もしてねーぞ?」

『だ、だって…こんな近くにコウが居たらいろいろヤバイって。』

「はぁ?ヤバイってなん「プワーンワーンワーン!エリアストレス上昇警報」

「『……。』」


甘い雰囲気を断ち切るように嫌なサイレンの音が室内に響き渡る。


「ヒロシフト入ってたか?」

『…でもまだ時間じぇねーし。』


と思ったらギノからの通信が…。

出ないわけにもいかず通信モードにする。


『何ですかー?』

「今回は非番の奴らも集まってくれ。

狡噛もそこにいるんだろう?早めに来るように。」


ブツッ


「あいつはエスパーか。」

『マジかよー今からいいとこだったのに!』


行かない訳にもいかずもぞもぞとベッドから出る。


「いつでも出来るだろ。

それより急ぐぞ、全員招集かかるってことは結構なミッションだ。」

『へーい。』







(で?夜這いは成功したの?)
(逆にされた。)(はぁ?)



end
 

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