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□Enchant/PSYCHO-PASS
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「ご苦労だったな。ほれ。」
『!ありがとうおっさん!』
征陸がポケットから出したのは、オレンジ味のキャンディ。
まぁ…傍から見たらただの飴だと思うだろう。
でもその飴は、隔離施設では取り扱っていないメーカーのもの。
そして俺がこの世で一番好きな物でもある。
「しかしヒロはほんと好きだな、その飴。」
『へへッ。』
彼の手から飴を受け取り、直様中身を取り出して口に放り込む。
残った包み紙は、捨てることはせずポケットに仕舞いこんだ。
「んじゃ、監視官殿も待ってることだし戻るぞ。」
『今日は俺のお手柄だもんね。』
「馬鹿言えッ俺のおかげだろ?」
この飴が貰えるのは、俺が現場で潜在犯の取締をした時だけ。
征陸はペットに餌付けをする感覚であげてるんだろうが、俺はたったそれだけのことで胸が高鳴る。
強くて何でも知ってて大人の男って感じのおっさんは、俺の憧れであり好きな人。
征陸の子分的なポジションで居ることが、彼と長く一緒に居られるから今はそうしてる。
けど、いつかは…心の内で溜まりに溜まっているピンク色で装飾された俺の愛の言葉たちを彼に送りたい。
根っからの潜在犯な俺でも、人並みに恋はしたい。
…好きなのが男という時点で人並み以上な気がするが、この際その事は忘れよう。
「何ぼーっとつっ立ってんだ。置いてくぞッ!」
『あ、待ってー!』
***
今日の仕事はこれで終わりだった俺は帰って来て直ぐに自室へ戻り、ベッドの隣にあるデスクの方へ直行した。
いらない物で溢れ、もはや本来の物書きをするスペースさえも無くなったデスクの引き出しを開ける。
『結構貯まったなぁ。』
引き出しを開けた瞬間、ほのかに香るオレンジの甘ったるい匂い。
その匂いに頬が緩みそうになりながらも、ポケットに入れていた飴の包み紙を取り出し引き出しの中に仕舞う。
今日の分を入れるとこれで37枚目。
この変態じみたコレクションは、みんなには内緒にしている。
こんなゴミを貯め込んで、引き出しで蟻でも飼育してるのかと馬鹿にされるのは嫌だった。
だってこの包み紙は、俺の唯一の宝物。
生まれてこの方好きになった人も居ないし、ましてや好きな人から物を貰ったこともなかった。
そんな時におっさんが俺に飴をくれて、優しく微笑んで声をかけてくれる。
残虐な仕事をした後の、あの心に染みる優しさに何度救われただろうか。
好きという感情に過剰に反応しすぎてるといえばそうだと自分でも思うけど、あの飴を貰えることが今一番の幸せなら止める必要はないと思わない?
それにもっと仕事を頑張らなきゃって思う。
彼にもっと認められて、もっと俺を必要としてほしいって。
…このままじゃずっと引き出しの前で彼への思いを永遠と巡らすことになりそうで、強制的にやめるために引き出しを閉めてベッドに背面からダイブする。
数分ボーッと天井を見つめていたら、ふとひとつの疑問が浮かんだ。
隔離施設で取り扱っていない飴を、どうして潜在犯のおっさんが持っているんだ?
前に一度聞いた時には、年寄りの特権だとか言われてはぐらかされたけど、よくよく考えたらおかしいぞ?
俺には知り得ない裏ルートから仕入れているのか?
もしかして知らないのは俺だけとか?
そういえばあのメーカーだけどこにも売ってないんだよな。
朱ちゃんにあの飴を頼んだこともあったけど、結局見つからなかったのを思い出す。
『うあーー頭が爆発する!』
いつも使わない脳を使ったからか半端じゃない疲労感が俺に襲いかかってくる。
明日もまたこき使われるのは目に見えてるので、早く寝付けるように電気を消し目を瞑った。
***
翌日
仕事がこんなにないのも珍しい。
暇すぎて何もすることがなく、昨日結局解決出来なかった疑問を隣でニュースを見ていたおっさんに持ちかけた。
『なぁあの飴ってどこで売ってんの?』
「どこにでも売ってるだろ、飴なんて。」
『売ってないから聞いてんだよ。
朱ちゃんに前頼んだけどどこにも売ってないってさ。』
「…知ってどうする。」
『え?』
一瞬おっさんの声が低くなった気がした。
表情もどこか硬い。
『俺怒らせるような事言った?』
「…。お前が買えるようになったら、おっさんの俺なんてもう相手にされねーだろ?」
『…は?それだけの理由で教えてくれなかったのかよ。
バッカだなー。飴は嬉しいけど、なきゃなくていいんだ。
おっさんがくれる飴だから嬉しかったっていうか…。
ッ、恥ずかしい事言わせんな!』
「ククッ…可愛い奴め。」
グリグリと頭を撫でられ、折角セットした髪がボサボサになる。
いつものトーンで言われたからピンとこなかったけど、おっさん今なんつった。
数回脳内で今の会話をリプレイし、その言葉の意味が分かった瞬間ボッ!と顔に血が集まる。
『じゃ、じゃあおっさんは俺が好きってことでいいよね?』
「自惚れるなクソガキ。」
『えっ』
額を指で押され、椅子のローラーがカラカラと後ろに動き出し、彼と少し距離が離れてしまった。
俺はムキになってさっきよりも彼に接近し、おっさんの唇にキスをしてやろうとしたら、背後から狡噛が呆れたような声で俺の行為を止めようとする。
「とっつぁんら、俺らが居ることを忘れてないか?」
「見せびらかしたって祝福はしねーけど。
てか朱ちゃんが照れてどうすんの。」
「えっ!あ、違います!
もう縢さん私をからかうのやめてください!」
「(全く…騒がしい。)」
end
結局おっさんはどこから飴を入手してるんだw