キミの唄

□05.眼帯
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「千ッ!!!!!!!」





何が起きたか分からなかった。


大好きな人が、目の前で死ぬ。

これは、ただの悪い夢だから、大丈夫。


目が覚めたら、きっと母様も父様もおはようって言ってくれるから。



そう思っていたいのに、こんなときばかり頭が正しい答えを出してしまう。

自分の周りに出来た、赤い水溜り。

どんどん大きくなるその中心には 私を抱きしめる母様とさらに父様。

『もういい、もういいから・・・・離して、もう』


私には何も見えないように、母様も父様も固く私を抱きしめて放さない。

グサッ グチャ バシャ


嫌な音。気持が悪い。憎い。

もうとっくに息絶えてるであろう両親。
それなのに、私をまだ放さない。

そして、この行為をやめない少年。




全てがもう、


『馬鹿馬鹿しいや』

飽きてしまった。

『ちょっと、行って来ます。父様、母様』

しょうがないから、暇つぶしにソイツ等をヤりに

『あとコレ、借ります』

刀も忘れずね。





ぎゅっと目をつぶり、大切な人達の笑顔を思い出す。


目を開く時には、全てが終わっていますように。



『ボンくん、目、瞑っておきなね』


閉じたまぶたの先で、彼が頷いた気がした。





「どこにもいかないで。お願い、千」


梵天丸の、震える喉から出た声。

これは、彼のお願い。


『わかった。だけど、その後キミの心が私を嫌ってもしらないよ』



うん、そう言って3つの足音が動く。



一つは私。

一つは竺丸。

一つは義姫。




やっぱり私は、物語を進めていかなきゃいけない。


『ごめんね、梵』



ゆっくりと、まぶたを開く。  





 
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