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□ある人物の独白
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私はいつも想像するのです。私の両の手の中で彼女の首が絞まるのを。そして、彼女が窒息してゆく様を。私は常日頃から彼女を殺したいと思っているのです。




この様なことを言うと、私が快楽殺人者の様だと思われるかもしれません。ですが、私は彼女以外を殺したいと思ったことは今まで一度たりともなかったのです。寧ろ、彼女以外の人を殺すなど考えられませんでした。私は、それを恐ろしいと思ったからです。平凡に、人を殺すということが恐ろしく、おぞましいことだと思ったのです。


では、彼女は人間ではないのかというと、それは違います。彼女は紛れもない人間です。ですが、私の中の人を殺すことが恐ろしいと思う気持ちは、彼女の前では全く通用しないのです。私は、彼女に対するこの件以外は至って正常な人間です。喜怒哀楽も五感も備わった、何の不足のない人間です。他と違うところといえば、少し頭が良すぎるところでしょうか。しかし、それだけです。私は、正常な人間のはずなのです。ですが、どうしても彼女を殺したいのです。



私が彼女を殺したいと思い始めたのは、彼女と初めて会った日からそう長くはありませんでした。私は仕事柄、ほぼ人とは関わらないので、彼女と会ったことが新鮮だったのかと言われればそうなります。しかし、ここで言っておきたいのは、私が、殺したいと思うほどの憎しみを彼女に持っていないということです。憎しみや憎悪で彼女を殺したいと思っている訳ではないのです。それは今まで話した内容から分かって頂けると思います。寧ろ彼女は、憎しみとはかけ離れた存在です。少なくとも私は、そう思います。



私が彼女に好意を持っていないというのは嘘になります。でもそれが、恋愛感情からくるものかというと、私は首を捻ってしまいます。ですから、そうではないのです。私が彼女に持つ好意は一種の親愛に近いと思います。私は、恋愛感情や欲求で、彼女をどうこうしたいとは思っていませんでした。つまり私たちは、恋仲だったわけではないのです。独占欲や嫉妬という恋愛特有のもつれから彼女を殺したいと思っているわけではないのです。



では、なぜ私が彼女を殺したいと思っているのか、疑問に思っていることでしょう。しかし、私はその明確な答えを提示することができません。なぜなら、答えなど存在しないからです。ただ、確かなことは、私が彼女を殺したいと思っているということにつきます。私は仕事柄、多くの殺人事件に関わっていますが、どれにしても殺人に至った動機は、必ずしも負の感情によるものだけというわけではないと思います。理由がないというのも理由だからです。殺人のための殺人とでもいいましょうか。殺したいから殺す、そのような殺人もあります。



私は、ただ、彼女を殺したいのです。彼女と話しているときに、心の中では殺したいと思っているのです。そして、何度も彼女の首に手をかける様を思い描きました。



今でも、彼女を殺したいと思います。私は思い続けているのです。初めて殺したいと思ったその日から。



そして、切望しているのです。もう一度、彼女を殺したいと。







20101216
 

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