アルシェリ

□君の右の手のひら
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「ねぇ、アルト…」

一つ一つが精一杯だった。離れないでって、行かないでって。

「ったく、また何か用事か?こんな時間に呼び出しやがって。」

「……え…いから」

あたしの顔が見えないから。アルトに言っても、返事なんて分かり切った事…

「?」

「な、なんでもないわ!」

泣きそうだった。ボロボロの翼で飛び続ける私を支えてくれる何かが欲しかった。

シェリルは俯くと、アルトに近寄った。

「な、何だよ」

「…ばかっ」

聞えないくらいの、やっと聞こえる程度の声。

「…何があったんだよ。」

「何でもないの。今日はただ…」

言葉が出なかった。

「ただ?」

アルトの顔は真剣だった。
「ただ…ただ…ぅっ」

ぷつん、と何かの糸が切れたように熱い雫がこぼれ落ちた。

「シェリル…」

アルトはシェリルを優しく抱いた。ふんわりと、でも強かった。

「分かった、自分から言わなくていい。」

「うん」

「今日だけは…っ…お願い、アルト。」

ランカちゃんは応援してるわ…だってあんなに一生懸命なんだもの……でも…
今の私ははばたけない。

こんな翼じゃ…

だから少しだけ、

「シェリル、今日は帰れよ。」

「…な…」

もう私は翔べないのかな。ギャラクシーみたいな生活に戻るの?…ダメ、弱気になっちゃ。

「明日。」

「…」

「SMSの仕事が入ってない。 だからよかったら、その…」

「行くわ」

「…な…まだ何処に行くかも言ってないのに、しかもシェリルはその日空いてるのか?」

「…ぅ…」

シェリルは携鯛を取り出すと、大急ぎでメールを打っていた。そして打ち終わると携鯛の電源を落とした。

「空いてるわよ!」

「おいおい……まぁいい…わかった。じゃあ明日ここで待ってろよ。10時位にはいくから。」

「う…ん」

今までの事を忘れられる気がした。そんな事、出来ないけれど、明日は特別。

「じゃあね!アルト。忘れたらぶっ殺すわよ!」

そう言ってアルトに人差し指を向けた。

「全く、気まぐれだな…」
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