story1

□秘密
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私以外、誰も知らないことなのだが、ワタリは有名な発明家だ。
普段従事している、私の補佐だとか執事のような仕事は彼にとっては趣味みたいなもの。
だが、Lの仲介役をするようになってからは、本業である発明家としての活動はほとんどやっていない。

思い起こしてみる限り、私が物心つく頃から彼は私の側にいたのだから、ざっと20年は休業しているはずだ。
彼の発明品は数多く、どれも素晴らしいものばかりだ。


だが、私は彼の作り出した物の中で、最も素晴らしいものはこの世に発表されていないことを知っている。




ワイミーズハウスの本館から少し離れた場所には彼の大きな温室がある。
少し、とはいっても、施設の敷地面積は相当なもので、本館から徒歩で約20分ほどかかる。

幼い頃、部屋の窓から見えるその温室にどうしても入ってみたくて、ある日こっそり忍び込んだことがあった。

ちょうどウインチェスターでは春が到来したばかりで、とても天気のいい日だった。

ガラス張りの大きな扉をドキドキしながら押し開けると、きいっと小さな音を立てて扉が開いた。
開いた扉の向こうから流れ出した生暖かい空気が私の顔を撫でた。

温室の中では様々な植物が栽培されていて、子供の私にとっては鬱蒼と生い茂っているように見えた。
秘密基地のようなその空間は、私を興奮させるのに十分だった。


植物たちの合間を縫って突き進んでいくと、急に開けた場所に出た。
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