精霊達のレクイエム

□永久(トワ)の安らぎ、永遠の音色
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明け方に少し開けた窓の隙間。そこから寒気が音も無く入りこみ、じわじわと室内の温度を下げてゆく。

モニカは、冷えた体にグルリとショールを巻き付けると、床に足を付けた。
なぜだかこの季節に入ってから、あまり夢見が良くない。悪夢を見る、などとそんな物ではない、と思うが。何かを夢で見て、目が覚めるのだ。

そしてこの季節は室内の空気が滞ってしまいがちで、モニカは気分が滅入る。
寒いのと、気分のどちらを取るかと言われれば気分だ。
なら夜間ではなく昼間換気をすればいいのでは、と思うが、昼間は仕事に出ている。なので、自室を無防備に開けるということは嫌だった。

「散歩でもしようかしら。」

思いつきに口にした言葉。
それが妙にしっくりした。
部屋に篭っているのは嫌だ。

ならば早い方が良い、と思い立ったら行動だ。





自分の足音が反響する音。
ほとんどと言っていいほどそれしか聞こえない。
あと、聞こえる物と言ったら、風が葉を揺らす音ぐらいと言ったところだ。

「これは下手したら私、夢遊病者が徘徊しているだなんて思われそうね。‥‥あながち間違っていないかもしれないけど。」

だって夢見が悪く、宛もなく歩き回っているのだ。違いと言えば、意識がしっかりしているくらい。

空を見上げれば、先ほどよりは僅かに明るくなっている。
(そろそろ夜が明けるか。)
このままここに居る訳にはいかない。

見回りの者に気をつけながら歩いてはいたが、夜が明ければ騎士の者達がどっと増える。
変なところで疑われかねない。

今の私にがしなければならないことは、目立たないで顔を覚えられないようにすること。
その上で安全を確保しなければならない。

足早に廊下を通り抜ける。

もうそろそろレファーが帰ってきているかもしれない。
問いただされる前に戻らないと。

(見つかれば説教物ね。)

レファーが頬を上気させて怒ってくる姿が容易に想像でき、思わず笑いを噛み締める。
次いで想像してしまった事があまりにも笑えなくて、顔からは笑いが消える。
何となしに、レファーが妖精の姿から精霊に代わって説教をされた事はないな、と考えたのだ。小言で済めばいいが、レファーが力を奮ったらと、ぞっとする。
自分の身は他者にバレない程度に守れるからいい。だが、建物はどうだろうか。モニカの見立てでは、この華奢で繊細な装飾の施された宮は精霊の力に、威圧に堪えられない。
この国に居る国守りが束になれば、精霊の威圧は何とか抑えられるが、力までは取り抑えられない。
そうなれば、モニカ自身の力を解放しなくてはならなくなる。精霊の力を滅除できるのは一級品の奏霊弔者だけだ。
この四面楚歌な中、その力がバレずに使えるだろうか。

(あ〜、やだやだ。何でこんなにも、悪い事ばかり思い付くの。)

頭を一振りして気分を切り替えようと試みる。

まあこの悪条件の中、マイナスに考えてしまうのは仕方ないとは思うが‥‥。
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