精霊達のレクイエム
□戸惑う心と揺れる水面
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「―――は?」
状況が飲み込めない。
まるで久しぶりの友に会ったかのような口ぶりで、話し掛けてきたのは兄だった。
兄を探しに行く、と言って4日目。
なんと兄は自分からのこのことやって来た。
「ほらモニカ、素に戻ってるぞ。口調、口調。」
そんな妹を余所に、兄はポンポンと言葉を投げ掛ける。
ようやくフリーズしていた脳が正常に動き出した。
敵と思ってパイプを振り下ろした相手は兄、フィオーラ。
そして―――
「―――なんで兄様が居るの!しかも乙女の寝所に無断て入ってくるなんていい度胸ね。っていうか、どさくさに紛れて肩抱かないで。」
なまじりを吊り上げて口早にまくし立てるが、この兄には全く効果がない。
「なんでってモニカを迎えにきただけだし、乙女の寝所って………妹が飛び込んできて、抱きしめない兄はいないだろう。お兄ちゃんうれしいぞ。モニカが自分から俺にハグをしてくれるなんて。」
ああ、思い出した。
兄はこういう人だ。
いつも最低では2日に1回は顔を出していた兄だったから、4日も離れていて忘れていた。
「兄様、わかったから……。」
いっそ脱力する。
心配していた自分が馬鹿みたいにに思えた。
自分に抱き着いている兄をペリッと引きはがし、向き直る。
「どうして私がここに居るのが分かったの。」
そう、私がハーレイ達に助けられたのは偶然のはずだ。
必然なんかじゃない。
なのにどうして。
「ああ、それは」
私から離された兄は、名残惜しげに自分の手と私とを見比べていたが、尋ねられたとたん雰囲気が変わった。
いつも思うが、人が変わったかのような豹変振りだ。
「月華の森の周辺であるのはこの屋敷ぐらいだからな。君に限っては賢い馬のことだ、ここに来ると思ってね。」
だが、返ってきたのはなんとも単純かつお気楽な返事だった。
「………そこにたどり着かなかったらどうするつもりだったのよ……。」
妹に平気でそんなことをする兄の正気を疑う。
この屋敷の所有者らしきハーレイはどうしたのだろう。
というより、兄が非常識すぎるのだ。
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