精霊達のレクイエム
□始まりの言葉
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「お嬢様、奥様がお呼びです。」
ノックをして入って来た侍女の言葉に窓辺に立っていた私は振り返った。
風に煽られ舞う銀色の髪が、光に当たりキラキラと輝く。
侍女を見る瞳は質素の薄いエメラルド色。
淡く見えるのにその瞳は意志が強そうに見える。
「母様が?」
凝った造りをした窓枠に肘をついていた私は、あまりよろしくない体勢をさりげなく戻し、問い返した。
「はい。なんでも、今すぐ部屋に来て欲しいそうです。」
「わかった。行くわ。」
私の返事を聞いた侍女は入って来た時と同じように一礼すると部屋を出て行った。
部屋に一人になった私は一人首を傾げた。
――――――――――
「母様、モニカです。」
そう言って部屋の戸をノックすると、お入りなさい、と母の声がしたので失礼します、とドアノブを回した。
部屋の扉はよく手入れされている証拠に音も無く、スムーズに開いた。
扉を開けると昔とあまり変わらない部屋の風景が見える。
壁にかけられた風景画に感じのよいテーブルや椅子、本棚などが目に入ってきた。部屋一帯はブラウンで整えられており清潔感漂う綺麗な部屋だ。
モニカの部屋とほとんど変わりない景色がレースのカーテンをかけられた窓から見える。
その窓の側に立って後ろを向いていた女性がこちらを向いた。
「モニカ、急に呼び出してごめんなさいね。」
そこに立っていた母エイシャーは本当に申しわけなさそうな表情をしている。
「大丈夫ですよ、母様。それよりどうしたんですか?」
珍しいですよねと続けた。
部屋の扉を後ろ手で閉めながら私は問いかける。
部屋をよく見渡すと部屋には自分と母だけだった。
「貴女に今からお願いがあるの。今から私の故郷に行ってほしいの。」
「今から?それより、母様の故郷はどこなんですか?」
「そう、今からよ。夕食は手頃に食べられるような物を馬車に積んであるわ。荷物も。その馬車でベルシアに行行ってちょうだい。」
もう、荷物が積まれていると聞いて驚いたが聞いたことのない名前が出てきて、首をひねった。
「ベルシア?」
「やっぱり聞いたことないかしら?」
そう言われ首を縦に振る。
「そう、ベルシアは一般には知られていない土地なの。隠された土地とも言うわ。」