荒れ地のはな

□望みのモノ
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「アイリスもしかして、そんな理由で弓を習い始めたの?」

「そうよ?だってなにか強みになるものが欲しかったんだもの。」

「君って本当に――」


―――真っすぐ
だよね。


声にならない声でイオは呟いた。

「?なにか言った?」

「……いや?」


「?ならいいけど……。あっ、このトレイ一階に返しにいけばいいの?」

ふと、自分が食べ終えた器などを見てアイリスは言った。

「………ちょっと、人の話しちゃんと聞いてた?今下に行けば危ないって言ったよね?」

「だったらまた貴方が行くの?」

「それ以外ないじゃないか。」

「貴方は私の召し使いじゃないのよ。そんなことまでする必要ないわ。」

「確かに俺はアイリスの召し使いじゃないけどアイリスのために何かしたいんだ。」

そう言って淡く微笑む彼。

うわあぁ。すっごいキザな台詞。これは酒場で会ったあの人と少し同じ類だわ。

イオはアイリスに全く効果がないどころか、そんなことを考えられているなど知らず、トレイを返しに部屋を出ていった。








―――――――――

ガチャ


キイィ

宿の主人にいろいろと尋ねられ遅くなった。

アイリスはもう寝ているだろうと思い配慮して、静かにドアを開けた。

アイリスを目で探した、ソファーにはいない。

「?……!!」

イオが部屋を出る前までアイリスが毛布に包まり器用に座ったまま寝ていた。

無防備な寝顔で。

アイリスは知らないだろうがイオとアイリスは実は会ったことがある。

アイリスの隣、頭付近に腰を下ろし、彼女の紙を撫でる。

軽くウエーブがかった艶やかな黒髪。

そして、今はふせられている紫色の宝石のような綺麗な瞳。


なんにも変わっていない。

表が変わっても、中はかわっていない。

背が高くなり女性らしくなったが彼女は彼女だった。

愛おしい。

自分に近寄って来るのは財産目当てと、この顔目当てばかり。

だから表ズラだけいい顔をするようになった。

俺に媚びを売った奴らを影で後から笑ってやろうと……。

普段は誰にも関わらないし、助けもしない。

だが、アイリスの後ろ姿を見た時、とっさに追いかけていた。

早くこっちを向いて欲しくて、確認したくて、あの男から助けようとした時、彼女は男に立ち向かったのだ。

普通の女性なら、ましてや令嬢ならなおさらそんなことはしない。

びっくりしたと同時に感心もした。

だが悲しくもあった。

俺に守らせて欲しい、と。

昔はただの友達だと思っていた。

あの時も、自分を理解してくれるよき理解者だと……。だが、会って解った。

俺はアイリスが好きなのだと。

守りたいのだと。


女なんてどうでもいい。

だけど、ただ一つの例外。

それがアイリス。

イオは頭を撫でていた手を止め、寝ているアイリスの顔を見た。

あどけない寝顔だ。

起きてる間は頑張って背伸びをしている表情も今は幼く見えるのはなぜだろうか。

こんな所でアイリスを寝かせられないと思い、イオは彼女を起こさないように配慮しながら、優しく抱き上げ、ベッドへ向かった。

古いが綺麗に整えられたベッドにアイリスをおろす。

ギシ

ベッドのスプリングの音がした。

まさか、アイリスは普段からこんなにも無防備なのだろうか?

だが、もう離れるつもりはない。

ずっとアイリスを守る。

危険から守り側にいたいと思った。


ベッドに寝かせたアイリスの寝顔をしばらく見つめていたが、自分も寝ようとソファーへと向かおうとしたが、くいっ、と何かに掴まれた。

「!?」

振り向くとアイリスがイオの服の裾を握りしめていた。

「アイリス?」

起きているのかと思い、名前を呼ぶが返答はない。

「……置いていかないで…アネーシアお母様……」

眉根をキュッと寄せ、苦しそうに押し殺した声をアイリスは吐き出していた。

だが、起きてはいない。
悪い夢でも見ているのだろうか?

とても悲しい、辛そうな顔をするアイリスがとても見ていられなくてイオはベッドに腰掛け、自分の服の裾を握った手を上から包みこむように手を握りしめた。もう片方の手はアイリスの頬に沿え、目尻の涙を優しく指で掬った。

「アイリス、大丈夫だよ。俺はアイリスを置いてなんか行かない。」

聞こえていないのがわかっていながらもどうしようもなく彼女を元気付けたかった。


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