荒れ地のはな
□望みのモノ
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アイリスはソファーで寝かせてくれないと宿代私が全額払うと言ったのだ。
これだけ不経済だとまともな宿を取るのはやっとだし、値は張る。
それを知っているのだろう。
それか、女性にお金を払わすなんてできないと思っているに違いない。
アイリス的には宿代をイオに受けとって貰いたかったが、普通の理由では受けとってはくれない。
宿代は二回も助けてくれたお礼だと言ったのに……。
彼は頑として受け取らなかったのだ。
もう、外は真っ暗だ。
逃げていた時はまだ薄明るかったが、イオに事情を話して口論している内にかなり時間が経ったようだ。
そう言えば夕食を食べていなかった。
ふと、部屋の中を見渡すと彼は居なかった。
首を傾げる。
いつの間に出て行ったんだろう?
「さっきは居たわよね?どこに行ったのかしら?」
少し待っても彼は戻ってくる気配がなかったので、アイリスは探しに行こうとドアを開けた。
ドアを開けた瞬間誰かにぶつかった。
ぶつかったと言うよりか、胸で抱き留められたと言う方が正しいが。
「イオ!」
胸にぶつかっていた顔を上げると相手はイオだった。
「アイリス、いきなり飛び出してくるからびっくりしたじゃないか。」
「部屋の外には人の気配なんてなかったわ。お願いだから気配消さないでよ。」
「そういう問題じゃない。なんで部屋から出ようとしたんだ?」
「あっ!」
忘れていた。
頭で考えるよりも体が先に動いたのだ。
「……まったく君は…。」
「ごめんなさい。貴方に言われたこと忘れてたわ。」
見るからに肩を下ろしてしゅんとなるアイリスにイオは言った。
「いいよ。ちゃんと自分がしようとした行動の浅はかさに気づいたみたいだから。それよりも、お腹空いていない?」
イオはあくまでそれを笑顔で言ってのける。得に、浅はかさ、と言う部分は笑顔全開だが、目が笑っていない。
これは怒ってる。
「え?……まあ、うん。」
背中に冷や汗をかきながらアイリスはイオに返事をかえした。
突然言われた前後になんの脈絡のない話題にアイリスは戸惑った。
「はい、これ。」
そう言って持ち上げていたトレイをアイリスの目の前まで下げて渡してきた。
軽い食事のようだ。
どうやら彼は、アイリスが部屋から出て来るのを気配で感じ、とっさにトレイを持ち上げていたみたいだ。
いつの間にか部屋から居なくなっていたのはこれを貰いに下に下りていたからなのだろう。
「ありがとう。」
「食事取ってないんだよね?」
「ええ。」
「とりあえず、部屋に入ってそれを食べて。」
そう言われ部屋に入り食事を取る。
その間彼は腰に差してあった剣を手に取り磨いていた。
食事を食べ終わったアイリスは興味を引かれて彼の隣に座ってのぞき見た。
「それって毎日しないといけないの?」
確か、昨日出会った日にも夜剣を磨いていた。
「いや、別に毎日と言う訳ではないけど、こうしていないと剣が脆くなるんだ。」
「へぇ〜。大変なのね。私ね、幼い頃お父様に剣を習わしいってせがんでいた頃があったわ。その頃弟が剣を習い始めたばかりで、悔しかったの。」
そう言って目を細めて、その頃を思い出して懐かしんでいるのか微笑みを浮かべた。
「それでね、皆にすっごく大反対されたわ。だから拗(す)ねちゃって、勝手に剣を持ち出したの。まだ幼い頃だったから子供の手には有り余る大きさの剣でね手を怪我したの。あんまり覚えていないんだけど、この後剣の代わりに弓矢を持っていたの。誰かに渡されたような気もするんだけど…。でね、私はそれから弓を必死に習ったの。反対を押し切ってね。でも最後にはお父様も許してくれたわ。剣ほどは危なくないからですって。」