witcher3

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今から約1500年程前のこと
"天体の合"と呼ばれる魔法の大変動が起きた
その力はこの世界と異世界との境界線を破壊し、かつてこの世界には存在し得なかった現象や存在が流れてくる結果となった
人間がこの世界に流れ出たのもこの時からで、その存在は瞬く間に広まる

"ウィッチャー"という存在が生まれたのは今から数百年も前のこと
彼らは外界よりもたらされた魔法と、人工的な変異によって産み出された存在
彼らの生業は怪物退治であり、それが最もたる存在理由だ
しかし、こういった職業には、根も葉もない噂が尾ひれと言わず手足を生やして一人歩きするもので・・・
今でこそ彼らは中立の立場にあり、人々からその存在を意味なく嫌われることはなくなったが
それでも根付いた嫌悪感は未だに拭えない。ウィッチャーであるというだけで、後ろ指が指されることなどが日常茶飯事なのだ

リヴィアのゲラルトもそのウィッチャーの一人だ


(女人だけでなく、比較的若く見目の良い男も行方不明、か・・・)


掲示板に貼られていた羊皮紙を眺めながら、ゲラルトは髭を撫でた
イェネファーを探す旅に出た頃よりも大分伸びている、そろそろ切るべきか。ふと、そう考えながら、依頼内容の書かれた紙を読み直す


  依頼:行方不明者の捜索

──最近、村の住民の失踪が増えた
  女ばかりだけでなく、若くて見た目の良い男衆もだ
  私の娘も、つい昨日行方不明になった
  兵士に掛けあっても聞く耳を持ってくれない。誰でも良い、娘と村の者達の居場所を突き止めれば報酬は弾もう


文末には"ウィルソン村の村長"という言葉と、地図であろう簡易図面が描かれている

人拐いによって女が拐われることは、言っては何だが良くあることだ。若くて美しい娘なら尚のこと
だがしかし、いくら見目が良いとは言え、男が拐われるというのは珍しいことだ
こういったことの犯人は人間である可能性は高いが、特殊な怪物が関与してないという可能性も否めない。もし仮にそうであれば、ただの人間の手に負えるものでもないだろう
どちらにせよ、この依頼は他の誰かに引き受けられる気配はないようだ。少し古くなってる羊皮紙を眺めながら、描かれている地図を見る
示されている場所はここからそう遠くはない。ローチの脚を以てすれば、すぐに着きそうだ
ゲラルトはローチを指笛で呼ぶと、その背に跨がってウィルソン村を目指すことにした。まずは詳しく話を聞かねば・・・。












地図の場所に着いたのは、太陽が赤く染まる夕方になってからだった。頭上にあった太陽は沈みかけている
道中、怪物に襲われていた商人を助けたり、怪物の巣を破壊したりしたため、予定よりも遅い到着となってしまった
他にも、狼や野良犬に襲われて、ローチが錯乱しかけるといったアクシデントもあったが、印を扱うゲラルトからすれば、ローチを落ち着かせることは容易いため、さして問題はない

村に着いて驚いたのは、その規模の大きさだった
ウィルソン村の情報については、助けた商人が、たまたまその村からの帰りだったため、多少は入手していた
大きな村で、希少価値のある鉱石や薬草が度々取れるのだと話していたが、思っていたよりも村は大きかったのだ
山際にあるウィルソン村には、採掘場がいくつもあった。興味本意でウィッチャーの目で見てみると、採掘場もそこそこ広いのか、山を掘り進める音がそこかしこから聞こえた


「おい、ちょっといいか」


村に近づいたゲラルトは、ローチから降りると、採掘場の近くに腰掛ける一人の男に声をかけた
土汚れのついた服とタオルを頭に巻き、腰には簡易ランプをくくりつけて、無精髭の生えた男だ。どうやら鉱夫らしい


「なんだ」
「ウィルソン村というのは、ここで合ってるか」
「あぁ、そうだ。あんた余所者か?旅の商人にしては物騒な格好だ」
「剣を2本も持つ商人がいるなら、俺も是非見てみたいものだな
 村長と話がしたい。掲示板にあった依頼の件で来た」


ゲラルトの言葉に、男は顔をしかめると、あぁ、と憎々しげに呟いた


「あの野郎、ようやく重い腰を上げたのか。トロールよりノロマなやつめ」
「随分な言い草だな、ここの村長は人が良いと商人から聞いたが」
「フン、確かに昔は良かったさ、昔はな」


助けた商人の口振りからして、嘘を言っているとは思えなかった
だが、目の前にいる男からも、嘘を言っているような気配は感じない


「外面はいいのさ、商売は儲けてなんぼだ。貴重な取引相手に嫌な顔なんてするわけもないだろう」
「村の者には優しくないのか?」


男は顔をしかめたまま、やや間を空けてから口を開いた


「さっきも言ったが、昔はいい村長だったのは確かだ
 村の者の悩みを親身に聞いて、叶えれるものであれば叶えていたし、支援も惜しまないような奴だった
 だが、ある日を境にあいつは変わった」
「・・・どうやら変わったんだ」
「村を出歩かなくなった。あいつが陳情を聞くときは、あいつ自身が直接聞き回っていたが、今じゃめっきり屋敷から出てこねぇ
 それに、村人への夫役(ぶやく。強制的に課せられる労役のこと)も厳しくなった。未成人であろうと、働けれる者は働かす
 唯一の救いは、非労働者・・・老いすぎた者や赤子だな・・・そいつらに対する救済があることくらいか」
「いつから村長は変わった?」
「一年以上前からだ、詳しくは覚えとらんが・・・。失踪者が出だしたのもその頃からだったか」


ふむ、とゲラルトは顎に手を当てた。商人から聞いた人物像と180°変わる内容だが、嘘をついてまでこの男が得することはない
そもそも、村長に対する呼び方が「あいつ」だったりと、馴れ馴れしいのも気になる。ただの住民と村長の関係だけでは収まらないようだ


「村長とは付き合いが長いのか?口振りからして、最近知り合ったわけではなさそうだが」
「・・・長い付き合いではある、少なくとも村の誰よりも長いだろうな
 話が長くなったな、あいつに用がいるんだろ?
 やつの家は、このさきの門を通り抜けた先にある。扉の横に狐の壁掛けがあるのが目印だ」
「そうか、感謝する」


まるで早く行けと、これ以上話すことはないと言わんばかりの口振りで、男は村長の家への道を伝えた
これ以上の質問は無意味だろう、早々に諦めたゲラルトは、しかし少なからず得られた情報に、ひとまず村長の家へと向かうことにした



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