短編

□毒きのこ
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「若、若くん」
「・・・。」

「何怒ってるんだよキノコてめえ」
「この腕捻りちぎるぞ」
「ごめんなさい」


一応言うと私の方が1つ年上だ。彼の辞書には敬うと言う言葉は無いのだろうか。人のベッドを占領して偉そうに本を読むきのこ頭の男は一応彼氏だ。いや、彼氏なのだろうか。奴から好きと言われたことは無いしいつも毒の入った言葉しか奴は吐かない。
昔からのご近所付き合い・・・幼馴染からいつの間にか恋人という関係になっていた私達だが正直実感はないに等しい。
そういう、その、キ、キス、とかもしたことはないしデートというデートだってしていない。お互いの家に行くぐらいだ。それだって小さな頃から変わっていない。
奴は部活で忙しいしそれに対して不満は無いのだが、何だろう。私と恋人で奴は満足なのかな、なんて。

さっきから仏頂面(いつもの事だが)のマッシュルームのようないかした髪型の奴の腹をゴッドハンドでくすぐってやった。断じて厨二病などではない。


「!?おまっ」
「おやおやココが弱いのですかね若くんはウヒっ痛!」


漫画だったらゴッ、と爽快感漂う効果音が描かれただろうか。キノコ頭の野郎の手刀は私の脳天にクリーンヒットだ。あまりの痛みに涙目になりながらキノコの顔を睨めば、何食わぬ顔で難しそうな本を読んでいる。


「・・・なんで今日そんな機嫌悪いの」
「別に悪くない」
「若機嫌悪いと眉間にしわ出来るよね」
「・・・」

「あー・・・図星か。理由話してくれないなら岳人辺りに聞いてみ、」
「馬鹿かお前!そういう所だよ!」


ケータイを取り出した手をバっと掴まれ、必然的に若の顔が近くに来る。きょとんと若を見つめていれば若の顔はみるみる赤くなった。


「ええと、可愛いね?」


もう一度手刀がふってきて、思わず頭を抱え込んだ。いつまで経っても痛みは降って来なくて、代わりに感じたのは頭に置かれた手の感触だった。恐る恐る顔を上げればそこには怖い顔をしたキノコぼうやがいて、不安気に彼の名前をぽつりと呼べばへの字に結ばれていた彼の口が開いた。


「お前、無神経なんだよ」
「え?そう?」
「向日先輩とかと仲いいし、ジロー先輩には抱きつかせてるし」

「・・・」
「そういう目だってあの人達だって男なんだから」
「・・・もしかして・・・嫉妬、だったりする?」
「な!?」


耳まで茹できのこな彼の目に映っている間抜けな顔もきっと真っ赤だ。太腿をべしっと叩かれて「何で!?」と言えば彼は真っ赤な顔を逸らしている。照れ隠しと分かったその行動に私も恥ずかしくなってしまった。


「・・・おかしいか」
「ううん、嬉しい」

「調子のんな馬鹿!」


いたた!頬っぺた引っ張るな馬鹿きのこ!



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サイト一周年ですね。いやあ早い早い。
ずっと書きたかったツンデレな日吉です。日吉可愛いよ日吉。

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