短編

□消えた彼女と偽りの妹
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「誰、君」


思わずこぼれた言葉がそれだった。







私の家と親戚の白石家は、関東と関西と離れた場所にある。それ故に従兄弟に会える日数は年内に数回と少なく、最近は中学校に上がり部活等の関係で中々会えなかった。
久々に会う白石家のお姉ちゃんや蔵ノ介くん。そして何よりも同い年で、親友とも呼べる位置にいる友香里と会えることがとても楽しみだった。

…だがその願いはうち壊されることになる。


「何言うとるん名前、どっからどう見ても俺のかわええ妹やんか?東京の方で姉ちゃんと暮らしとおたから標準語やけど。
忘れたんか?」


蔵ノ介くんにそう言われて、彼にべったりとくっついている女の子を見つめた。知らない女の子だ。大方蔵ノ介くんの彼女だろう。
じっとこちらを見ている彼女は何故か動揺していた。別に何もしないのに。呆れたように髪を耳にかけながら蔵ノ介くんに問う


「…え。何それ。意味分からないギャグは面白くないよ蔵ノ介くん。彼女さんでしょどうせ。
寒いギャグはいいから友香里どこ?」

「友香里?誰?」

「…だからもうそのギャグはいいって。蔵ノ介くんの妹の友香里をさっさと出してください」

「洒落言うてんのは名前やろ?妹はここにおるやん」

「はあ…もういいよ。私友香里の部屋いくから。どうせそこにいるんでしょ?」
「おい名前!
…何なんやろ?久しぶりに会ったのによう分からんこと言うし。変わったなあ」


聞こえているのですが!
若干蔵ノ介くんに苛立ちながら階段を荒々しく上がった。いたずらも程々にと言ってやろう。友香里の部屋の前まで来て、ノックもせずに入る。
久しぶりに会える従兄弟にどきどきしながら。だがそこに彼女はいなかった。


「友香里?入るよ」


人気の無い静寂に包まれている彼女の部屋は、以前に来たときと大分内装が変わっていた。橙色でまとめられていた部屋はすっかりピンク一色になっている。

隠れている様子もなく、本当にいないのかな…と辺りを見回すと、棚にある写真たてに目が入った。気になって目を落とすと、そこにいたのは友香里ではなくて先程の少女であった。

呆然としながら立ち尽くしていると、誰かの足音が聞こえてきた。その足音はこちらに向かってきて、やがてドアが開いた。


「名前、どないした?勝手に部屋入っとるし…何か今日おかしいで?」

「蔵ノ介くん…。ねえ、友香里は?ここ友香里の部屋だよね」
「だから友香里なんておらん。本当に今日はどうかしたんか?誰にも言わんし言うてみ?」

「嘘よ!だってほら!この写真!」


持っていたバッグから一枚の写真を取りだして彼の前につきだした。私と友香里と蔵ノ介くんが写っている写真だ。蔵ノ介くんは黙って私の手から写真を抜き取り、沈黙した。


「…俺この子のこと知らんけど…」
「ほら、お姉ちゃんに似てるでしょ?これが友香里だよ。蔵ノ介くんの妹だよ!」

「確かにそっくりやけど、俺の妹ちゃうわ。下におるやん妹なら。ほんま名前いたずらも度が過ぎると怒るで?」


その言葉にぽろぽろと涙が頬を伝う。消え入りそうな声で「嘘だ」と言っても現実は変わりはしない。

友香里が消えた?

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!

その時頭をよぎったのは先程会った少女だった。私を見て明らかに動揺していた。そこで浮かんだのは、友香里が消えたのは彼女が関係しているということだった。
まさか、彼女が妹になったから友香里が消えた?

その時点で名前を抑えるものは無くなっていた。蔵ノ介の制止も聞こえないフリをして"偽物の妹"の居場所へ急ぐ。

リビングにいた彼女はつまらなそうに爪を弄っていた。
いきなりの足音に驚いたようにこちらを見てきたがお構い無しに胸ぐらを掴む。


「返せ」

「…は?」

「友香里を返してよ!」

「ちょ、何して!名前!」


蔵ノ介が姿を見せると、妹は胸ぐらの手を振り払って蔵ノ介に飛び付いた。


「くーちゃん!」
「大丈夫やで。…親がおったら大事なっとった所やったわ。名前、ちょおおかしいで?」

「っー!うるさい!」


そう吐き捨てて名前は白石家を飛び出した。わけが分からない。なぜ友香里がいなくならなければならなかったのか。

堪えきれなくなって涙を流すと、友香里の声が後ろから聞こえた気がした。


助けて


驚いて後ろを振り返ったが、そこには誰もいなかった。
ただ彼女が助けを求めているのなら…



私は、何をすればいい

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