銀桜

□金木犀(高銀)
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………この匂いは………
甘い芳香に誘われて、
どこへ行くあてもなく歩いていた。
見慣れた場所で
見慣れた奴らが、
自分の誕生日を祝ってくれその喧騒の中から酔いをさまそうとふらり歩いていた。



ふと
「よぉ銀時」
振り返り仰ぐと、まぁるい月を背中に背負って高杉が、ニヤリと笑っていた。
そして、高杉は銀時の頭を目掛けて何かをぱらぱらまいた。
「…てめ、今日は目付きの悪いおまわりさんが見回りやってっぞ。しかもおっかねードS星から来たサド王子もな。なんだか、たちのわりぃ危険なお尋ね者が徘徊してるっちゅう話でね」
「…ふん」
「あ、おまえの事か」
銀時は、気付いていないのかその銀髪にオレンジの花を振り払おうともしないでふんわり笑う。
高杉は、ちらと見てくすりと笑う。
「関係ねぇーな」
高杉は鉛管を燻らす。
「…で こりゃなんのマネだ」
銀時は肩に残った花をつまむ。
「あン?てめー今日誕生日だろうが」
「…ま、そうだが」
「くれてやらぁ」
「…おまえなぁ…」
銀時は口を開いて、やめた。銀時は思い出した。
自分の誕生日近くになると、松陽塾のそばで甘い香りを漂わせていた樹木を。
松陽先生と見上げたその木の名前を、『モクセイ』とかっての師は教えてくれた。
《銀時、モクセイには、金木犀、銀木犀、ウスギモクセイってあるんだよ。この樹はね、大気汚染や排気ガスを嫌う樹で、空気が澄んでいる所に咲く性質があるんだよ》
かつての師の姿が、モクセイの樹の下で佇んでいるように思えた。
「この花が咲きゃ、嫌でもてめぇの顔が浮かぶんだよ」
高杉は、忌ま忌ましそうに言う。
銀時は、思い出した。
以前自分が言った言葉を。そして、川の水をすくう。
「高杉、これ、やるよ」
差し出した銀時の手の中に、ゆらゆらと月が写りモクセイの花が沈んでいる。
「なんのマネだ」
高杉は眉を寄せる。
「おまえのためなら、月と星を集めてやるって、ガキの頃言ったよな?」
「…バカヤロ。反対だろうが」
高杉は、ちっと舌をうつ。
銀時は、ん?という顔をする。
「俺がてめーを祝うんだろうが」
高杉は、少し照れたように視線を外す。
「あはは。そうか」
銀時の手から、水は少しずつ漏れていく。
水を川に戻す銀時の背中を高杉は見ていた。
そして、高杉は銀時の銀髪に残っている花をひとつひとつ取った。
そして、最後の一つをつまみ川に流した。
そして、銀時に羽のようにふわりとキスをした。
「銀時、誕生日、おめでとう」





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